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【誌上テーマ別サロン】第78回 <基礎講座>   スモール・ビジネスの研究開発 ―「中小企業経営学入門」(78)―

【誌上テーマ別サロン】第78回
<基礎講座>
スモール・ビジネスの研究開発
―「中小企業経営学入門」(78)―

1 研究開発の重要性
・伝統的な経営学では製造業(メーカー)が企業の代表としてイメージされており、この製造業では生産や製造、販売そして財務(資本の調達と運用)が主な職能(遂行しなければならない重要な仕事)と考えられてきた。しかし、競争関係が激しくなる、技術の進歩により新しい製品がつぎつぎと開発される、そして消費者や利用者のニーズがたえず変化する、などの環境が変化するなかで、これらの職能に「研究開発」(R&D、リサーチ・アンド・ディベロップメント)がさらに重要なものとして認められるようになってきた。
・しかも、研究開発は製造業以外の業種でも大切であるという考え方が一般化している。流通業(小売業・卸売業)や、きわめて多くの業種からなるサービス業などにおいても、研究開発は重要な職能になっている。さらに、大企業だけでなく、スモール・ビジネスにおいても重要なのである。

2 スモール・ビジネスの研究開発力の向上
・人的資源、資金的資源、技術的資源さらに情報収集・分析力などの面で、スモール・ビジネスは大企業に劣るとみられてきた。確かに、それはそのとおりかもしれないが、研究開発型やIT系のベンチャー企業などの台頭をみると、必ずしもそうとはいえない研究開発力をもっているスモール・ビジネスが存在していることがわかる。その意味ではスモール・ビジネスの研究開発力は比較的高いグループと低いグループに分けられると考えてもよい。
・大企業に対等に対抗できる研究開発力の比較的高いグループは別にして、低いグループについては、研究開発力をいかに高めるかは、大切な課題となる。大企業の関係企業として、下請生産を行いつづけることもできるが、企業としての自立性を保持し、環境適応していくと考えるならば、研究開発力の向上は必然である。そして、下請生産をつづけるとしても、親企業1社に頼るという1社依存には、リスクが伴う。そのためにも、自社の技術力を高めなければならず、研究開発を推進する文化(カルチャー)をつくりあげることが求められる。

3 大企業と異なる研究開発
・もっとも、スモール・ビジネスの研究開発は大企業のものとは明らかに異なる。各種の経営資源(人的、資金的、技術的など)での制約は、大企業と異なり、スモール・ビジネスではきびしく、情報収集・分析力でも劣っている。そして、大企業にみられる研究所などの研究開発組織の整備もできないし、そうする必要はない。
・スモール・ビジネスにとって大切なのは、環境変化が常態化するなかでは、それに対処するために、変化を積極的に調査し、吟味する姿勢をもちつづけることである。これがスモール・ビジネスの研究開発の原点というべきものである。
・そして、調査・吟味という研究開発の結果、自社を変えなければならないのであれば、変わること、つまりイノベーションに向うことになる。そして、変わることの内容を経営者が陣頭に立って調査し、具体化していくことが大切になる。
(2018.4.7稿)

永続的成長企業ネットワーク 理事
横浜市立大学名誉教授  斎藤毅憲

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  • 開催日2020年10月5日
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