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【誌上テーマ別サロン】特別号 <基礎講座>   単純すぎるスモール・ビジネス論を排す ―「中小企業経営学入門」(特別号)―
【誌上テーマ別サロン】特別号
<基礎講座>
  単純すぎるスモール・ビジネス論を排す
―「中小企業経営学入門」(特別号)―
1 台頭する「単純すぎる見解」への危惧
・菅政権は、スモール・ビジネスは生産性が低いということから、M&Aなどを通じて合併や統合を勧めようとしている。近年著名になったアトキンソンの主張を菅は採用しようとしている。スマホの料金は高く、値下げをもとめるとか、地方銀行の再編成を行いたいなど、企業行動をコントロールする意向を政権は示しはじめている。これらの動きはすべては悪いとはいえない。しかし、スタンスとしては大きな方向性は示すのはいいものの、判断は企業の自主性に基づくものであり、強権的なイメージを与えてはならない。この点ではスモール・ビジネスのM&Aなどの推進も同じものである。
・問題はスモール・ビジネスは生産性が低いと即断していることである。経済学者のなかでも、この主張の賛同者は多いようであり、M&Aなどによってスモール・ビジネスを減少させようとしている。しかし、スモール・ビジネスの経営学の立場からいうと、この見解はきわめて単純すぎるものと考えている。
2 経営(マネジメント)が異なる大企業とスモール・ビジネス
・大企業の経営とスモール・ビジネスのそれとは、まったく異なっており、経営を異にする大企業的な見方で、スモール・ビジネスの経営を評価してはならない。確かに、大企業の多くは、スモール・ビジネスから出発し、成長してきた成果(アウトカム)であるが、ほとんどのスモール・ビジネスは大企業にならず、小規模なままである。大企業になったのは、スモール・ビジネスのなかではわずかな例外的なもので、おおむねスモール・ビジネスは大きくならないのである。
・大企業になったこと自体は、ある意味では「偶然の幸い」であったといえる。もちろん、大企業に成長させた経営者はみずからの戦略が環境に適応することで成功したといい、経営の成功=大企業化についての説明はまちがいではないが、マクロ的にみると、大企業は企業の中では例外的なものなのである。この例外的な存在で行われている経営を基準にして、それを小規模で、活動が多様性に営んでいるスモール・ビジネスにあてはめて、生産性が低いといってもそれは無理である。そして、スモール・ビジネスどおしが合併して規模を拡大すれば、大企業のように生産性が高い経営できるようになると考えることはとうていできない。
3 キラリと光るスモール・ビジネスになろう!
・小さくてもいい、生産性が低くてもいい、要はスモール・ビジネスは立地している地域のなかでキラリと光る存在であってほしい。キラリと光るとは、当該企業の提供する製品やサービスが地域の生活者(消費者や生産者)に役立ち、貢献し、かれらから心からの”感謝”や”賞賛”をもらえることである。それには、労働集約的な作業が多く、ニーズも少ないから、大企業的な生産性は見られないのである。しかし、それこそがキラリと光るスモール・ビジネスの生きる道なのである。
・現在はコロナ禍であるが、コロナで苦しみ、悩んでいる地域の生活者に役立つことをひとつでもいいから、見つけて活動することである。生産性は低くてもいい。いろいろなニーズにこたえる多様なスモール・ビジネスが活躍してほしい。
 (2020.12.15稿)
                 永続的成長企業ネットワーク 理事
                 横浜市立大学名誉教授  斎藤毅憲
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  • 開催日2021年1月5日
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