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【誌上テーマ別サロン】第84回 <基礎講座>   伝統的な業種におけるイノベーション ―「中小企業経営学入門」(84)―
【誌上テーマ別サロン】第84回
<基礎講座>
  伝統的な業種におけるイノベーション
―「中小企業経営学入門」(84)―
1 伝統的な業種再生への動き
・第二次世界大戦後、わが国は経済立国を目ざして、科学技術をベースに先進的な工業製品づくりに、まい進してきた。また、生活の洋風化も進み、これらによってライフスタイルも一新されてきた。他方で、伝統的なライフスタイルについては、衣食住などの生活の基本領域で、衰退したり、そのポジションを変化させてきたものも多い。
・たとえば、和服を着ることがなくなったために、呉服店の経営は苦しくなり、売上高や店舗は大幅に減少してきた。そして、食品の分野では小規模な豆腐の製造業者などが衰退してきた。クツをはく生活がごく普通になったので、下駄を使うことがなくなり、これを取り扱う店舗はみられなくなった。さらに、タタミ屋などの職人も減少した。
・もっとも、日本人の生活の見直しが行われたり、外国人観光客が急増するなかで、これらの伝統的な業種の再生の動きも生じている。
2 呉服店におけるイノベーション
・和服は高価であり、成人の女性が主な利用者であった。高価であったために、分割払いなども行われ、売上金の回収がむずかしい時代もあった。そして、成人女性の「和服ばなれ」が進んだので、呉服店は衰退してきた。
・しかし、現在も存続している呉服店は、イノベーションを展開してきた。そのひとつは、「レンタル業への転換」である。高価な和服をセールス(売る)するのではなく、レンタル(貸付け)して、レンタル料を得るように変わっている。レンタルであれば、利用者はそのときどきの気分でいろいろな和服を安い費用で着ることができるのである。
・このレンタル業への転換によって、着物のファッションショーが容易に行われるなど、若い女性が気軽に和服を着る機会が増加してきた。この若い女性のレンタル和服の利用が増加することで、子どもやファミリー、若い男性の利用も行われるようになっている。さらに、近年では、外国人観光客の利用がメディアなどでもとりあげられており、呉服店が復活しはじめている。
・もうひとつのイノベーションは、写真スタジオを併設することであり、これによって和服姿を撮影して、シナジー(相乗)効果を得ようとしている。自分の和服姿を写真や動画でとっておきたいというのが普通の人間の感覚であり、写真スタジオの併設は有効である。人間は、日常とはちがう自分を創造したり、発見したいと思うものである。そして、当然のことながら、写真スタジオには、ヘアやネイルのメイクなどを行える人材も必要となろう。
3 「ビジネスモデル」の変更を考えてみよう!
・これまでのビジネスモデルを変えてみることを考えると、伝統的なライフスタイルを支えてきた業種のスモール・ビジネスでも新たな再生の可能性が開かれてくる。現状がうまくいっていないならば、これまでのビジネスモデルにとらわれずに疑ってみることが大切になる。これまでのやり方を変え、新しいことを行うイノベーションは、確かに一面ではこわいことであるが、なにも行わなければ将来への展望は明らかになく、もっとこわいことになる。
                                          (2018.4.5稿)
           永続的成長企業ネットワーク 理事
           横浜市立大学名誉教授  斎藤毅憲
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  • 開催日2021年1月20日
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