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【セミナー緊急企画:《寄稿》】 新型コロナ「苦境下」を生きる ―企業経営者へのメッセージ―

【セミナー緊急企画:《寄稿》】
新型コロナ「苦境下」を生きる
―企業経営者へのメッセージ―

永続的成長企業ネットワーク 理事
横浜市立大学名誉教授  斉藤毅憲

・新型コロナ・ウイルス問題が発生してから、すでに数か月がたった。しかも、先行きの見通しが見えない状況がつづいている。そして、長期化のおそれがあり、それは多方面にわたって影響を及ぼしはじめている。国民の外出”ジシュク”に依存することは大切であるが、感染症のための医療体制の急速な整備を怠ってきた政府の対策には国民の不満が高まっている。検査ができない、感染していても入院ができない、マスクが不足している、正確な情報が伝わってこない、専門委員会は本当のことを伝えているのかという不安など、数えきれないほどの不満が聞かれてくる。政府には早急に医療体制を確立し、国民の安全・健康と経済の両立を守ってほしいと願っている。
・そして、企業経営者の皆様には、企業経営が大きな危機のもとにあり、存続をかけた戦いのなかに置かれ、まさに「苦境下」にあることに同情の念をもっていることを伝えなければならない。そうでなくても環境が激動する現代の経営はむずかしく、技術革新、市場の変化、競争関係の激化などに対応しつつ、存続のための活動を日々展開しているが、今回のような感染症の世界的な流行によって企業活動が大きく制約をうけるといったことは、これまでには未経験のことであった。
・わが国は、台風、集中豪雨、地震などの自然災害が多く、これによって企業活動が制約をうけ、ピンチになることはあった。その場合、被害をとくにうけた地域の企業が経営をむずかしくしてきたが、今回の新型コロナ・ウイルスは、国内全体の企業経営だけでなく、グローバルな経済社会にも影響を及ぼしているところに重要な特徴がある。
・福島原発のときに、目に見えない放射能に恐れおののいたが、今回も目に見えない敵に対面している。目に見える「可視的」なものであれば、逃げることはできるが、それがむずかしい敵が今回の相手なのである。わが国はオリンピックの開催や習近平の来日などもあって、感染者数を多く見せたくないなどの考慮もあってか、対応が遅れたが、この目に見えない敵にしっかりと対峙しないと来年のオリンピックの延期開催が無理になるだけでなく、経済や社会への悪影響が長期にわたって生じることになるであろう。
・また、今回のものは、いわゆる”大恐慌”に匹敵するともいわれている。第一次世界大戦後、混乱していたとはいえ、相対的に安定した世界秩序は、これによって再び大きな”混乱”を国際経済にもたらし、自国中心主義的な傾向が顕著となり、第二次世界大戦のひきがねになってしまう。すでにアメリカのトランプ政権は、自国中心主義をとってきたし、難民の受け入れに苦労してきたEU諸国でも、同じような主張が台頭している。
・そして、超経済大国となった中国は、国民の自由を制限しつつ、”一帯一路”の世界戦略を展開しており、アメリカとのきびしい対立関係は今後もつづくことになる。わが国は、このようななかで、どのような立ち位置をとることになるのか、また日本政府は米中関係をどのように調整できるのであろうか。
・さて、緊急事態宣言は、外出”ジシュク”のもと、”不要不急”を除いて自宅で待機することをもとめてきた。これによって、個人の生活はこれまで経験したことのない不自由さのなかにあるが、大多数の企業の活動は存続の危機に追いこまれている。
・“ジシュク”というお上のお願いは、われわれ日本人にとって命令的な性格をもっている。”ジシュク”とは、本来自分から行いや態度をつつしむことであり、お上からお願いされるものではない。余裕がなければ、”ジシュク”はできないのであるが、お願いという名目で強制が行われている。強制的であるとすれば、お上は企業の被害を補うのは当然である。
・地域の生活を支えている小売業、飲食業、レジャー産業のほかに、宿泊業などの観光サービス業などを中心にして休業を要請され、顧客の極端な減少が進行している。このような業界は、売上高の低下によって存続の危機に追いこまれている。売上高は人件費や家賃などの固定費を回収できるほどの水準にはるかに及ばず、これが長期化すると経営は立ちゆかなくなる。政府や地方自治体の支援金も一時しのぎであり、残念だが、これによって経営が立ち直るわけではない。
・経営とは、「つづける(サクシードする)」ことであり、生きつづけるための活動であり、企業の経営はまさにこれを追求することであるが、新型コロナと政府の施策によって、きわめてきびしい状況に直面している。実際、コロナ倒産する企業も発生しており、月を追うごとに増加している。
・このようなきびしい状況のなかで、どのような経営を実践すればよいのであろうか。固定費、顧客の減少などのリスク負担に耐えられないというので、多額の負担を背負うまえに、企業をたたむという意思決定もあるかもしれない。新型コロナがなくても経営の展望が開けそうもないところでは、これを機に経営を終結させるという手もある。高齢者のコロナ感染者のなかで残念ながら亡くなられた方の多くは、いわゆる”持病”をもっており、”合併症”者であるといわれるが、それに類似した企業もサクシードをやめるという判断をすることになるかもしれない。
・しかし、”持病”があってもサクシードをなんとか考えられないであろうか。むろん”持病”がなければ当然サクシードにむけて、すべての知力とエネルギーを投入すべきである。この場にあっては、その場しのぎのものといわれ、批判をうけようとも、それは関係はない。なによりも生き抜くことが大切であるからである。
・学校の再開を遅れるなかで、9月入学問題が急遽登場している。しかし、それはいま議論すべきテーマではない。いまはなんとかしてでも学校を再開し、子どもたちにどのように教育をさずけるかを考えることであり、そのために知恵をだすことである。
・ポスト・コロナの経営はどうあるべきかを考えはじめている人びとが一部でいる。それも確かに必要であるが、いまやることではない。死にものぐらいになって、現在の苦境下を切り開いていくことを考え、実践することがなによりも大切である。おそらくポスト・コロナの経営は、この思考と実践の延長上におのずとあらわれてくるであろう。
・今日のような緊急事態の経営とは、これまでの行ってきたことや常識といったものが通用しない世界のものであり、その場しのぎの”なんでもあり”である。”なんでもあり”のなかでとりあえずうまくいきそうなものを行ってみることである。
・注目すべきは、顧客となる人びとには、外出”ジシュク”で家ですごすことや家周辺でひとりで歩くことがもとめられているから、このようなライフスタイルにマッチした経営を行うことが必要である。
・今回の問題が発生した当初は食料品・日用品さらにマスク、消毒液といったものへのニーズが高く、現在もそれがつづいている。しかし、長期化するにつれて、これとは別のニーズが生じるであろう。テレワークや自宅学習が増加してくるから、そのようなことができる体制を自宅内でも可能にするためのデジタル化が必要になる。そして、かつてとちがって親とくに父と子どもの接触が多くなっており、親子で外で遊ぶ姿が顕著になってきた。この辺にもニーズが生じ、マーケットが創造されそうである。
・外出”ジシュク”で、外食の機会は減少してきた。しかし、その結果、食事づくりの負担が増加している。店舗に来ることは極端に減ったが、この負担の軽減は必要であり、したがってマーケットは大きく開かれている。
・さらに、当分の間、家ですごす時間が多くなるとすれば、豊かな個人生活へのニーズも生まれる。趣味をつくる、読書を行う、友人と連絡しあう、音楽活動を行うとか、絵を描く、器材を使って体力をきたえる、など、これまでよりも充実した生活を送れるチャンスが増加している。そこで、今日のピンチをなんとかチャンスにできる時期が到来している。
・問題は自分の企業はそのようなニーズやマーケットに対応できないと考えることである。業種がちがうので、自社にはできないと思ってしまってはならない。たとえ、自社のドメイン(主要業務)がこれらのものでないとしても、なにができるのか、できるためにはなにをしなければならないのか、できないとしても他社とタイアップすれば、間接的であるがこのようなかたちで貢献できるのではないか、ということを問い、それに対する回答を見つけだすことである。そして、少し自社の経営を変えようと思うことが大切である。
・また、最近の動きは、「競争」ではなく、おたがいさまという「助けあい」の支援である。これによって自社では直接できないとしても、なんらかのかたちで新しいニーズやマーケットに対応していけると考える。
・そして、この「助けあい」は同業者や関連業者だけでなく、きわめて多様かつ異質のプレイヤー(関係者)によって支えられており、顧客や一般の生活者をもふくんでいる。顧客も、企業の経営を心配しており、この助けあいに参加しはじめている。その意味では、企業経営者も現在のきびしい状況を広く発信し、支援を求めるべきである。
・さらに、今回の問題で、自社をとりまく環境がどのように変化し、経営的にみてどのような影響をうけているかを冷静に判断し、評価しなければならない。前述したように、外出”ジシュク”と休業補償によって、家にすごすことが多くなるというライフスタイルによって経営はきびしくなったものの、この変化にいち早く対応できれば、ピンチはチャンスに生かせるのである。このようなことが、ほかにはないのかを自社のレベルで検討していくことが大切である。
・企業の経営は、まさに「苦境下」にあり、それがつづきそうである。しかも、ある程度、収束のメドがついても、再生には時間がかかるであろう。しかし、それにも負けずに、がんばりサクシードしてほしいと願っている。
・自分だけが大変なのではなく、他の経営者も同じように苦しんでいる。そして、多くの国民も同じく心配している。”同感”や”同情”の念があり、これをバネに、是非ともがんばっていただきたいと思っている。
(2010.5.10稿)

Information
  • 開催日2020年5月25日
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