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【誌上テーマ別サロン】第126回 <基礎講座>   固定観念を打ち破る経営づくり ―「中小企業経営学入門」(126)―
【誌上テーマ別サロン】第126回
<基礎講座>
  固定観念を打ち破る経営づくり
―「中小企業経営学入門」(126)―
1 固定観念へのこだわり
・固定観念を打ち破ったり、克服できれば、新しい世界が見えてくるかもしれない。「これはこうだ!」と思いこみ、それをつづけていれば新しい世界は見えてこない。「この業界は、現在では構造不況業種なので、将来性がない」と思えば、展望はない。売上高が自社だけでなく業界全体で縮小しており、倒産企業も増加しているというデータを見ると、確かに希望や期待はうすれていく。そして、「仕方がないなー」と悲観的に思ってしまう。このように思ってしまうと、明らかに新たな展開は生まれてこない。
・人間には、だれでも固定観念をもっている。そして、それへのこだわりをもっている。しかし、こだわりのロックをはずしてみてはどうであろうか。
2 「出版業は無理」からの脱却
・一例をあげると、出版業も構造不況業種であり、本は総じて売れず、書店の減少も激しく、書店のなくなった地域も増えている。出版不況といわれるように、出版社の経営はきびしい。
・それでは、まったく展望がないかといえば、そうでもない。本のデジタル化が行われたり、ネット販売も増加しており、新たな動きが見られている。
・そして、文字(情報)や本はなくなるわけではなく、衣食住と同じように人間にとって必要なものである。現代は知識社会や情報化社会であり、文字情報にかかわる産業は決して消滅するわけではない。
・2009年に出版社・夏葉社を設立した島田潤一郎は、出版業での固定観念を打ち破る経営を展開している。大手を中心に多くの出版社は大量に売れるが、比較的短期間の生命しかもたないような本を継続的に出版・販売している。そして、そのような本は全国の書店でもまんべんなく陳列され、販売している。確実に売上高や利益を得ようとすれば、そのような経営がもとめられてきた。
・しかし、島田のアプローチは、そのような経営から脱却して、なんども読みかえされるような「良書出版」にこだわっている。良書選択に努力するとともに、取扱書店を増やすことよりも、書店員とのコミュニケーションを大切にし、書店員の信頼を獲得することを重視している。このコミュニケーションを維持するために、全国の100店舗を取扱書店に限定して、セールスを行っている。要するに、良書を陳列してくれる書店づくりに尽力している。
3 「消耗本」から「貴重本」へ
・島田はすぐに消えていく「消耗本」ではなく、なんども読みかえされるような「貴重本」の出版―絶版になってしまった本の「復刻」など―によって、きびしい状況の出版業に参入しようとしてきた。固定観念を打ち破れば、展望がなさそうなところでも、新しい世界が見えてくる。そして、企業として、大きくならなくても、その企業の価値は高い。
(2020.2.25稿)
永続的成長企業ネットワーク 理事
横浜市立大学名誉教授  斎藤毅憲
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  • 開催日2023年9月5日
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