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誌上テーマ別サロン】第120回 <基礎講座>   日本酒メーカーにおけるイノベーション ―「中小企業経営学入門」(120)―
【誌上テーマ別サロン】第120回
<基礎講座>
  日本酒メーカーにおけるイノベーション
―「中小企業経営学入門」(120)―
1 停滞期から再生する日本酒メーカー
・ビール、ウイスキー、ワインなどの洋酒類が第2次世界大戦後、日本のマーケットに浸透・定着し、かわって日本酒メーカーの衰退が進行した。そして、地方にある中小零細の日本酒メーカーの多くは廃業や倒産に追いこまれた。
・しかし、日本酒メーカーの再生が近年、はかられ、停滞期や衰退期からようやく脱出しようとしている。以下は、その事例のひとつである。
2 「南部美人」の浸漬作業の事例
・岩手県の県北部にある「南部美人」は、注目すべき事例である。国内だけでなく、世界約40か国に日本酒を売り売しているが、製造工程にAIを導入している。同社は吉富愛望(よしとみ・めぐみ)アビガイルの(株)imaと連携して、「浸漬」(しんせき)という作業のAI化を実施している。
・浸漬とは酒米を蒸す前に水に浸してから引きあげる作業であり、米粒すべてに水を均一に吸わせるものである。しかし、米粒の形状や大きさは同じではなく、産地もちがっており、この作業は熟練の杜子(とうじ)の感覚や経験に依存してきた。
・杜子は酒米の形状や大きさを自分の目で確認して、ストップウオッチを使って数秒間のあいだに水から引きあげているが、この引きあげる前後の写真をとって、両者を比較したデータや、杜子判断材料にしそうな数値を収集して、引きあげの感覚や経験に関するルールを探しだそうとしている。
・南部美人とimaのコラボは、杜子の無用化を目的としたものではなく、これまで10年から20年かかって習得していた作業を5年とか、3年に短縮しようとしている。
岩手県は、3大杜子のひとつ南部杜子の地であるが、杜子後継者の不足や育成が課題になっている。これは南部杜子だけでなく、再生過程にある日本酒メーカーにとって、きわめてチャレンジングなイノベーションになると思われる。
3 imaの「awa酒(アワサケ)」開発
・imaは全国の酒造メーカーとコラボして「一般社団法人awa酒協会」を設立して、泡(あわ)のある日本酒をつくる試みを展開している。パーティなどの乾杯では、フランス製のシャンパン(スパークリングワイン)が使われているが、これを日本酒の「awa酒」にかえていこうという。
・既存のスパークリング日本酒は、二酸化炭素によって泡をだしたり、にごりをだしているが、「awa酒」はこれとちがって、ビン内で発酵するときに自然に発生する“きめこまかさ”やすき通った透明さのあるものになっている。現在はまだ知名度は高くないが、これは日本酒メーカーの新しいイノベーションとして注目される。
(2019.8.5稿)
永続的成長企業ネットワーク 理事
横浜市立大学名誉教授  斎藤毅憲
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  • 開催日2023年3月5日
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