サロン情報詳細


【誌上テーマ別サロン】第96回 <基礎講座>  酒造会社のイノベーション ―「中小企業経営学入門」(96)―
【誌上テーマ別サロン】第96回
<基礎講座>
 酒造会社のイノベーション
―「中小企業経営学入門」(96)―
1 「衰退」から「再生」へ
・かつて「衰退」の一途にあった酒造会社が活況を呈し、「再生」へ向かっている。第2次世界大戦後、わが国の地方の酒造会社は、ウイスキーなどの洋酒やビール業界の台頭のなかで、一部の大手メーカーを除くと、衰退の道をすすんできた。酒造会社はミソ、ショーユなどの醸造企業と同じように地域にとって貴重な伝統産業―つまり「老舗」―であったが、この地域の誇りとなるような伝統産業の多くは廃業に追いこまれ、姿を消してきた。しかし、再び活況を呈しはじめている。
2 日本酒への関心の高まり
・「日本食」が世界のなかで、その位置を高め、インバウンドによる外国人観光客の評価を集めている。「日本酒」も、その一環として、関心を高めつつある。
・また、衰退のなかでも、一部の酒造会社は、マーケットは大きくないが、こだわりの銘酒づくりに努力してきたことを忘れてはならない。大手のビール会社が製品開発にしのぎを削り、地域のいわゆる地ビール会社も独自の味にこだわってきたのと同じように、地方の酒造会社も衰退というきびしい状況のなかで地道な模索を重ねつつ、銘酒づくりに成果をあげてきた。近年では海外への輸出や海外での現地生産が大きな話題になるだけでなく、外国人杜氏(とうじ)の誕生などもニュースになっている。
3 熊沢酒造の事例
・神奈川県の湘南地域では唯一の熊沢酒造は、1872(明治5)年の創業である。ご多聞にもれず、同社も衰退し、一時は廃業に追いこまれるという事態にあった。このようななかで、6代目の社長は、1990年代前半にファミリー・ビジネスの再生に乗りだしている。
・鑑評会をだす酒造りを重視しつつ、比較的に安価な日本酒づくりに専念してきた同社は、地域のプライドとなるような「フレッシュで、せんさいな味わい」をコンセプトにした商品開発に転換している。そして、約5年の年月をかけて「天青」というブランド品の開発に成功している。
・しかし、6代目は酒造会社は日本酒をつくる工場だけではなく、人びとを呼びこむ魅力的なサイトにすべきという。そこで、「湘南ビール」の製造工場をつくり、敷地内でビール・イベントを開いたり、移築した古民家をレストランやベーカリーなどの店舗にしている。
・このように、同社は、本業の日本酒を地域ブランドにする努力を行うにとどまらず、「人びとが楽しめる」こともコンセプトにすることで、事業の多様な展開を可能にしている。これによって事業分野(ドメイン)を拡張している。
(2018.9.27稿)
永続的成長企業ネットワーク 理事
横浜市立大学名誉教授  斎藤毅憲
Information
  • 開催日2021年8月5日
  • 場所
  • 時間
  • 費用