サロン情報詳細


【誌上テーマ別サロン】第95回 <基礎講座>   ものづくり企業のイノベーション(4) ―「中小企業経営学入門」(95)―
【誌上テーマ別サロン】第95回
<基礎講座>
  ものづくり企業のイノベーション(4)
―「中小企業経営学入門」(95)―
1 洋菓子業の発展の裏で!
・洋菓子の製造業者の活躍ぶりが、どの地域でも目立っている。これに対して、高齢者がメインの顧客である和菓子の業者は苦戦がつづいてきた。もっとも、新しい商品を開発したり、むしろ伝統の味を守って健闘しているスモール・ビジネスも見られる。そして、企業として大きくなることを望まず、毎日、売りだす量をむしろ限定して味と会社の評価を守ろうとしている企業もある。
2 川崎市の「御菓子司 吉田屋」の事例
・創業以来約70年の川崎市幸区の吉田屋は、市内の同業者の集まりにも積極的に関与し、情報を収集や人脈づくりを行っているが、経営にも前向きにとり組んでいる。店舗に安心・安全な素材でつくりあげた「豆大福」などが陳列されている。和菓子の伝統を守りながら、若い世代にアピールするような商品開発に力を入れている。そして、「みゆきの梅」や「多摩の松風」など、川崎にゆかりのある商品も開発している。和菓子は季節感が大切なので、社長は自由な時間には散策し、草花を見て、商品開発のための情報を得ている。
・また、フェイスブックなどの媒体を使って、情報発信をはじめてからは、客層が若がえり、高齢者中心の店舗でなくなっている。客層としての世代のとりこみは、企業の存続にとって、きわめて大切であり、フェイスブックの成果があらわれている。
・さらに地元の小学生(3年生)を対象に、工場見学を行い、主力の「豆大福」づくりを見学させている。これは子どもたちには、ものづくりの現場を見る貴重な経験となるとともに、同社にとっては若いファンづくりにもなっている。
3 横浜・元町の「香炉庵」の事例
・香炉庵の最近のイノベーションは、地元大学とのコラボレーションである。地元の大学や高校とのコラボは、全国各地で行われているが、同社の事例もそのひとつとなる。
・フェリス女学院大学の文学部とのコラボは「百人一首」をテーマに横浜を代表するお菓子をつくることを狙っている。できあがったのが、一口サイズの「もなか」で、和歌の選択、ネーミングの決定、パッケージの指定などは学生のほうが担当している。「浜恋路(はまこひたび)」は、2種類で、ひとつは崇徳院の歌をもとにつくった、ほろ苦いコーヒー味の「取り札」である。もうひとつは、きんかん味で、和泉式部の一首から着想した「読み札」である。いずれも会いたい人への思いを託した恋歌で、商品と和歌を説明したしおりも同封されている。
・これが、是非とも横浜を代表するお菓子になってほしいと思っている。この種の商品開発は話題性があり、一時期的に関心を呼びおこすが、その後の大学側の支援や協力が少なくなるために、尻つぼみになるおそれがある。そこで、以後の販売やPRについても、両者のコラボがうまくいくことを期待している。
(2018.10.9稿)
           永続的成長企業ネットワーク 理事
           横浜市立大学名誉教授  斎藤毅憲
Information
  • 開催日2021年7月20日
  • 場所
  • 時間
  • 費用