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【誌上テーマ別サロン】第86回 <基礎講座>   伝統商品のイノベーション(2) ―「中小企業経営学入門」(86)―
【誌上テーマ別サロン】第86回
<基礎講座>
  伝統商品のイノベーション(2)
―「中小企業経営学入門」(86)―
1 「長崎カステラ」の松翁軒の挑戦
・長崎というと、一例としてカステラがイメージされる。老舗のひとつである松翁軒の創業は、1681年というから、300年をこえる歴史をもっている。これほどの長さをつづけるには、大変なことが多くあったと思われる。
・当主はすでに11代目になっており、この間、舌の肥えた長崎人のプレゼント品にすべく、味という商品の質を落とさないために、“商(あきない)”を広げないことを大切にするという家訓を守っている。確かに、少し“商”に成功すると、店舗や工場を増やしたくなるのが普通であるが、それは同社の行く道ではないという。
・同社の「五三焼(ごさんやき)カステラ」がメインの商品である。カステラの材料は、卵、砂糖、小麦粉、水あめ、ざらめの5つからなるが、五三焼は繊細に口のなかでとけていくことにこだわっているために、小麦粉の量を限界まで減らして、材料をていねいにかき混ぜていくので、職人は熟練しても、うまく焼くことができないものであったという。
2 「五三焼カステラ」の完成
・江戸時代には、甘み、酸味、辛味などの「5つの味」―すべての味―をこえるほどのうまさをねらっていたので、「五味かすてら」といわれていたが、前述した工夫や努力のなかから、明治以降になると、「五三焼カステラ」といわれるようになる。
・それまでの精進にくわえて、8代目はカステラの風味の向上にまい進して、明治30年代のパリ万博やセントルイス万博では上位での表彰をうけている。要するに、同社のカステラは、世界的な評価をうける名菓になっている。
・8代目はさらに当時、わが国では珍しかったチョコレートに注目して、これを先祖たちがつくってきたカステラに加えてみるというイノベーションを試みている。
3 「チョコラーテ」によるイノベーション
・チョコレートの味をカステラに加えることを考えたのは、8代目であるが、それを実際に完成させたのは9代目と10代目である。
・9代目は先代の研究していたチョコラーテの商品化を実現させている。そして、10代目はさらに味に磨きをかけて、現在のチョコラーテに完成させている。
・このようにして、3代をかけて新しいカステラの開発を展開し、同社のもつひとつの柱をつくりあげている。さらに、現在の11代目になると、江戸時代の五三焼の復活を果たしているという。
・同社は、以上のようなイノベーションを行ってきたが、それは、どこまでも舌の肥えた消費者にターゲットを絞りこみ、信念をもってカステラを開発してきた。これも企業が生きつづけるために必要なのでる。それは、メイン・ターゲットを絞りこみつつ、品質で勝負する経営である。
(2018.9.5稿)
               永続的成長企業ネットワーク 理事
               横浜市立大学名誉教授   斎藤毅憲
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  • 開催日2021年2月20日
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