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【誌上テーマ別サロン】第82回 <基礎講座>   市場の絞りこみによるイノベーション ―「中小企業経営学入門」(82)―
【誌上テーマ別サロン】第82回
<基礎講座>
  市場の絞りこみによるイノベーション
―「中小企業経営学入門」(82)―
1 「小さな市場」を狙う!
・スモール・ビジネスが大企業と同じような経営を行ってみても、うまくいかない。これは当然のことであるが、この当然のことを再認識することから出発したい。大企業はマス・マーケット(大量の市場)を対象とした量産化を可能にする大量生産を得意としている。そして、設備投資をした近代的な工場と研究所をもち、先進的な製品を開発することができる。
・これに対して、スモール・ビジネスは、大規模工場をつくることも、マス・マーケットを狙うことはできない。むしろ大企業が参入できないような「小さな市場」とか、「特定の顧客群」を獲得したほうが望ましい。また、大企業のように全国市場ではなく、立地している地域に限定して、いわゆる「地域密着」に専念し、市場獲得の見こみが高まるにつれて、徐々に活動の地域を拡大したほうがよい。
・このような考え方は製造業だけでなく、小売業・サービス業においても同様であろう。以下では、その事例を見ていこう。
2 中古絵本店の事例
・大型書店やネット販売の出現などの環境変化のなかで、書店や古本屋の経営はきびしくなり、その数を大幅に減らしてきた。充実した公共図書館と書店・古本屋の存在は、地域や文化度をさし示すひとつの指標であったが、書店が消えた地域が全国的にみると増加してきた。
・愛知県の北名古屋市にある「こども古本店」(代表者・中島英昭、http://kodomofuruhonten.net)は、本でも絵本、絵本でも古本に市場を絞りこんだビジネスを展開している。当然のことながら顧客の主な対象は、子どもとその親である。つまり、同社は市場を小さく限定している。
・古本屋にもちこまれる絵本は、よごれていたり、ものによってはボロボロであり、あまり歓迎されてこなかった。しかし、これを回収し、クリーニングしたり、補修することで、「リサイクル絵本」として再生して、これを「ウェブショップ」で販売している。
・ある意味ではビジネスとしては行いにくいものを逆手にとったビジネスビジネス・モデルといえよう。回収、クリーニングと補修などに苦労してきたが、すべての絵本を大切にとり扱い、顧客は子どもとその親をメインに、小児科のクリニックや保育園・幼稚園などになっている。ウェブショップなので、日本をテーマにした絵本は、海外の日本人学校からも注文が来ている。つまり、顧客は狭いが、市場は広がっている。
・また、軽トラックを改造した移動販売車を愛知県を中心に隣県のスーパーマーケットやイベント会場にも“リアル出店”することで、セールスに努力している。
3 市場の絞りこみと深掘り
・このようにみてくると、市場や顧客を絞りこみ、それを深掘りしていくことがスモール・ビジネスにとって大切になる。深掘りするなかで、いろいろな困難な問題に直面するが、それを克服する試みこそがイノベーションであり、生きる道のひとつなのである。
                                           (2018.4.9稿)
           永続的成長企業ネットワーク 理事
           横浜市立大学名誉教授  斎藤毅憲
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  • 開催日2020年12月5日
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