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【誌上テーマ別サロン】第65回 <基礎講座>   深刻化する後継者問題 ―「中小企業経営学入門」(65)―

【誌上テーマ別サロン】第65回
<基礎講座>
深刻化する後継者問題
―「中小企業経営学入門」(65)―

1 「大廃業時代」到来を示すデータ
・中小企業庁の調査によると、2015年で70歳に達する中小企業経営者は34万人、2015年から25年までに新たに70歳に達する人びとが約59万人になるという。つまり、中小企業経営者の高齢化は、いっそう進展することになる。
・そして、2025年には中小企業経営者の平均的引退年齢である70歳を越える人びとが60%以上の事態になる。経済産業省によると、この60%以上とは約245万人となり、同省のアンケート調査ではこのうちの約半数にあたる127万社は後継者が決まっていない。また、60歳以上の個人事業者についていえば、70%が「自分の代でビジネスをやめる」と回答している。つまり、このままだと「大廃業時代」が到来する。しかしながら、そのような廃業を考えている企業の約半数は、ビジネスの展開については問題はなく、「経常黒字」であり、黒字廃業になるという。

2 ショッキングな予測
・黒字廃業数自体が衝撃的であるが、経済産業省の試算によると、このような黒字廃業が実際に起るならば2025年までに累計すると、約650万人の雇用と約22兆円の国内総生産が喪失するという、きわめてショッキングな予測をあわせて立てている。しかも若い後継者による世代交替がうまく行くと、ごく一般的にはそれ以前よりも企業業績があがるともいわれているから、それはきわめて大きな影響を及ぼす。
・わが国では、中小企業や小規模企業の急激な減少は、21世紀に入ってこれまでにも続いてきたが、この予測どおりのことが実際に起こるとすれば、わが国の全体経済だけでなく、衰退している全国各地の地域経済にとって、きびしい事態が生みだされるわけである。とりわけ黒字廃業の企業グループのなかでは、優秀な技術やスキルを保有・蓄積している企業も多いことを考えると、ダメージは確実に甚大になるだろう。

3 動きだした政府の施策と大学への期待
・このような状況をうけて、このような事態を回避すべく、政府も積極的な動きを見せている。中小企業の事業承継を容易にするための相続税・贈与税の支払いを猶予したり、軽減する制度だけでなく、中小企業のM&A(合併・買収)を促進するための制度やM&A市場の整備、外部のプロフェッショナル人材の導入制度などが推進されている。
・これらの施策が確実に成果をあげるとともに、それがうまくいくためには、地方自治体や商工団体などとのコラボもいうまでもなく不可欠となる。さらに、あわせて問題になるのは、ビジネス系の大学教育であり、深刻化する中小企業の後継者問題をしっかり受けとめ早急に対策を講じ、教育の現場に反映させていくことである。
・その意味で、経営学部、商学部、経済学部などの責任はきわめて大きく、いまこそこの問題に前向きにとり組まないと、みずからの存在意義が問われかねないことになる。そこで、ビジネス系大学教育の取組に期待したい。
(2017.12.5)

永続的成長企業ネットワーク 理事
横浜市立大学名誉教授  斎藤毅憲

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  • 開催日2020年3月5日
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