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【誌上テーマ別サロン】第64回 <基礎講座>   スタート・アップ期のスモール・ビジネス(4) :日本経済新聞「私の履歴書」(2015年4月収録)にみるニトリの事例研究 ―「中小企業経営学入門」(64)―

【誌上テーマ別サロン】第64回
<基礎講座>
スタート・アップ期のスモール・ビジネス(4)
:日本経済新聞「私の履歴書」(2015年4月収録)にみるニトリの事例研究
―「中小企業経営学入門」(64)―

1 危機の発生
・3号店のオープンは成功であったが、いろいろな危機をその内部にはらんでいた。そのひとつは、セールスにかかわるものであった。当時は一般客にも掛け売りをしていた。しかし、製品は利用しているものの、なかにはまったく代金を支払わない顧客もいた。そこで、掛け売りを一切やめることにし、経営の安定化をはかっている。
・また、顧客によって表示価格の2割引きにしたり、3割引きにしたりしていたが、これを同一価格にしている。顧客が不公平であると抗議し、品物を返品してきたことが、その契機になっている。

2 仕入れの問題
・製造元との取引が可能になることで、「安売り」の体制をつくることができた。しかし、問屋に製造元との取引が見つかると、製品を卸してもらえなくなってしまう恐れがある。だが、安売りを可能にするために、問屋との取引と製造元との取引を並存させている。
・そこで、夜陰に紛れて製造元に出向き、現金払いで商品を購入することが行われていた。現状を打破するには、このような活動も行わざるをえなかったのである。

3 顕在化した人事上の危機
・最大の危機は、人事にあった。3号店に成長したニトリは、20名を少し超えるスタッフをかかえている。経理部長と営業部長を配置し、組織は構造化されている。しかし、それらの部長におまかせの放任型経営を行っていたのであろう。
・3号店がオープンした頃、地元百貨店の家具売り場の責任者を営業部長にスカウトしたが、この営業部長は仕入れ価格を水増しして、自分の懐に入れていたのである。店頭価格はじわりじわり上昇するとともに、売上げは減少している。
・また、賄賂を断った問屋が営業部長から切られている。さらに、会社の商品を横流するという事態も発生していたのである。
・要するに、会社の存続を困難にするような危機が顕在化していたことになる。しかも、スタッフの8割がこの営業部長に連座している。したがって、創業者の支持者はわずか2割にすぎなかった。
・創業者は「本当に脇が甘い」とか、「私の経営の甘さから起きた問題」と自戒しているが、1年ぐらいをかけて証拠を調べてスタッフの不正をチェックし、不正した人間を退職させ、自分の会社を守っている。残ったのは5名であり、4分の3を退職させたことになる。
・考えてみると、1号店、2号店あたりまでは、創業者の目のとどくスタッフ数であった。しかし、店舗も3号店になり、20名を超えるようになると、「統制の範囲」(スパン・オブ・コントロール)も生じてきている。かたちだけ組織構造をつくっても、責任・権限の明確化も行われず、報告義務や監視権限は履行されなければ不正は発生するのである。そして、これは、スモール・ビジネスの成長過程で必ず発生する問題でもある。
・要するに、それは、ニトリだけの問題ではなく、1人企業や数名のパートナーからなる企業が、徐々に大きくなるなかで生じる危機なのである。スモール・ビジネスとはいえ、経営(マネジメント)はその過程のなかで明らかに変えなければならなかったのである。
永続的成長企業ネットワーク 理事
横浜市立大学名誉教授  斎藤毅憲

Information
  • 開催日2020年2月20日
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