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【誌上テーマ別サロン】第63回 <基礎講座>   スタート・アップ期のスモール・ビジネス(3)   日本経済新聞「私の履歴書」(2015年4月収録)にみるニトリの事例研究 ―「中小企業経営学入門」(63)―

【誌上テーマ別サロン】第63回
<基礎講座>
スタート・アップ期のスモール・ビジネス(3)
日本経済新聞「私の履歴書」(2015年4月収録)にみるニトリの事例研究
―「中小企業経営学入門」(63)―

1 成長への志向性
・1号店の経営が軌道に乗ると、企業を大きくしたいという成長への欲求が生じる。駐車場もない1号店だけでは限界があることから、2号店の開設を考えはじめている。しかし、1,500万円程度の資金がそのためには必要なので、金融機関(地銀)に融資を依頼している。
・地銀は半分は貸すが、残りは他の金融機関から借りるようにという。断る理由に、このような条件を提示したようで、他の金融機関と接触しても断れる始末であった。しかし、交渉力を発揮して北海道の地元2行が貸すからといって、信金から500万円を超える融資をうけている。そして、金融機関とのこのかけひきに成功したので、父親の会社の所在地に2号店を1971(昭和46)年にオープンさせている。1号店と同じように、父親の所有地を使用できたことは実に幸いなことであった。

2 ライバル店の出現
・2号店は北海道初の郊外店で、250坪の店舗であった。売上げは順調というよりも、それを越えて驚くほど売れている。金融機関からの借入も2年後には完済している。
・しかし、いいことは長くはつづかない。2年後に2号店から500メートル離れたところに売場面積が約5倍近くある1,200坪の大型の家具屋がオープンしている。たちまちのうちに売上高が20パーセント減、30パーセント減になっていき、資金繰りは悪化していく。
・企業にとって競争はきわめて重要な環境であり、ライバル店の存在はニトリにとっても、きびしい脅威になっている。どうしても顧客は新しいだけでなく、大型の店舗に足が向き、そこで購入することになる。
・倒産の不安が創業者に襲いかかっている。その結果、死ぬことも考えるようになる。

3 苦境からの脱出
・このようななかで、この苦境からどのようにして脱出して、経営の打開を実現したのであろうか。家具業界のコンサルタントからアメリカの家具店視察のセミナーに参加することをすすめられ、西海岸の店舗とモデルルームを視察している。
・この視察で日米のちがいを感じている。アメリカの家具は部屋にしっかりコーディネートされており、ダイニングもリビングも豪華で美しく、価格も安いのである。そして、日本でもアメリカの豊かさを実現したいと思うようになる。この思いが苦境からの脱出につながる。
・ライバル店の出現で、苦境に陥ったが、帰国後やられたらやりかえすという闘争本能が強くなっている。ライバル店を東西南北からとり囲むように店舗網を作ることを企画する。そして、このような中から3号店が誕生している。
・土地の取得には、相当の苦労を経験している。地主の説得だけでなく、金融機関の融資に苦労している。3号店は1973(昭和48)年にオープンし、1年目は初期投資で赤字であったが、2年目には黒字化している。
・このような苦境をくぐり抜けるなかで、創業者は自分のエゴやプライドを優先して相手の立場を忘れてしまうと、仕事は失敗することを知るようになる。それは創業者がまさに経営者として成長したことを示している。

           永続的成長企業ネットワーク 理事
横浜市立大学名誉教授  斎藤毅憲

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  • 開催日2020年2月5日
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