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【誌上テーマ別サロン】第61回 <基礎講座>   スタート・アップ期のスモール・ビジネス(1)  日本経済新聞「私の履歴書」(2015年4月収録)にみるニトリの事例研究 ―「中小企業経営学入門」(61)―

【誌上テーマ別サロン】第61回
<基礎講座>
スタート・アップ期のスモール・ビジネス(1)
日本経済新聞「私の履歴書」(2015年4月収録)にみるニトリの事例研究
―「中小企業経営学入門」(61)―

1 チャレンジングな創業
・いまでは大企業のニトリの創業者は、似鳥昭雄である。23歳の1967(昭和42)年の創業である。それは、父親の経営するコンクリート会社の建物を利用してのスタートである。立地は住宅も多い地域なので、衣食住のうち、住関連の家具屋だけがないことから、この業種での創業を考えている。しかし、家具の将来性や可能性についてはあまり考えていない。要は、食べていくための生業として家具販売を選択している。ビジネス経験はあるものの、家具屋で働いた経験はなかった。この経験のなさが創業をきわめてチャレンジング(困難)なものにしている。

2 仕入れと販売のむずかしさ
・家具販売をスタートさせようと店舗をつくったものの、仕入れを行おうにもできないのである。家具問屋を回って交渉しても、ほとんど相手にされない事態に直面している。若いうえに、経験がないので、相手にしてくれず、仕入れは難航している。そしてやっと相手にされた問屋のいいなりで、なんとか仕入れができ、オープンにこぎつけている。
・しかし、販売(セールス)の経験がないので、広告用のチラシも大ざっぱで、商品名とサイズ、価格を書いただけのものであった。もっとも、1号店の店舗であったが支店という名をつけたので、本店が別にあるように思わせたり、卸センターという社名をつけ、安い(卸)というイメージと大きい(センター)という印象を与えるように工夫している。
・オープンした直後は、順調に売れている。しかし、1週間もすると、客足にとまってしまい、販売額は伸びなくなっている。開店直後は、どのような店舗であるかを知りたいために、客足があり、来店者が多い。だが、それが一段落すると、急速に客足は減ることはよく知られている。これをまさにニトリも経験する。
・売上げがあがらず、目標とした販売額を達成することができないので、経営的にはきびしい状況に置かれている。問屋からの取りたても、きびしく、売上げの改善を求められている。

3 1人企業の限界
・売上げが少ないので、店舗の2階で生活していたものの、食生活にも困る状態に陥っている。このような状況では、従業員を雇う余裕はなく、高校生の妹が学校がえりの後に配達を手伝ってくれている。家族の支援がこのような場合やはり頼りになる。
・平日はとくに来店者は少ないので、ブラブラしたような働き方している。しかし、大変な状態であるにもかかわらず、それほど努力はしていない。売上げがあがらず、成果がでないようになると、それを改善しようと努力すると思われるが、そうではなく、仕事への動機づけが低下している。他人と一緒に働いている場合には、互いに見はってなんとかしようとする作用が生じるのであろうが、1人企業のこの場合には、低い成果は動機づけの低下をもたらしている。
・なお、配達があるときは、午後4時で店のシャッターを一時的におろしている。これも1人企業の限界である。商店街からシャッターをおろすのは困るといわれるが、ひとりで経営しているので、これもいたしかたないことであった。配達がなければ店番だけをすればよいので、1人企業でも経営ができるが、それができないのである。
永続的成長企業ネットワーク 理事
横浜市立大学名誉教授  斎藤毅憲

Information
  • 開催日2019年12月5日
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