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【誌上テーマ別サロン】第60回 <基礎講座>   スモール・ビジネスの人材調達 ―「中小企業経営学入門」(60)―

【誌上テーマ別サロン】第60回
<基礎講座>
スモール・ビジネスの人材調達
―「中小企業経営学入門」(60)―

1 中途採用の常態化
・スモール・ビジネスにおける人材の調達は、どのように行っているのであろうか。大企業と同じように、人数は少ないものの、4月定期採用を行っている企業もあるが、概して中途採用が一般的である。人員の補充が必要になったときに、募集をかけて採用することになる。
・応募する人的資源つまり人材の質には、かなりのバラツキがあるように思われる。したがって、正規社員として採用するか、非正規社員として雇用するかは、スモール・ビジネスにとっては重要になる。質的に問題がなくても、働く意欲が低ければ、非正規社員として採用して、様子を見てから正規社員に変えていくことになろう。また、質的に問題があり、教育訓練が必要であると判断するならば、人手は必要なので採用を認めたうえで、当初はどうしても非正規社員でスタートすることになる。あるいは、企業としての支払能力に問題があるとすれば、正規社員による採用はむずかしくなる。さらに、経験者であれば、正規社員として採用し、しっかりと処遇する必要がある。
・いずれにせよ、定期採用も行っているが、人員補充のニーズに対応する中途採用によって、スモール・ビジネスの人材調達が行われている。

2 進む人材の多様化
・スモール・ビジネスの人材調達で注目すべきは、人材の多様化(ダイバーシティ)である。女性や高齢者の採用は増えているし、十分活躍している人びとも多い。高齢者のなかには、大企業や地方自治体の退職者も見られる。
・これ以外に、外国人や障がいをもっている人びと、性同一障がいの人びとも採用されてきている。また、児童福祉施設で育った若者、少年院から退所してきた若者、元ヤンキーなどの若者もスモール・ビジネスの人材になっている。
・大企業ではアメリカの影響をいけて、21世紀に入ると、ダイバーシティ・マネジメントの導入が盛んである。しかし、大企業のダイバーシティは、女性の採用に主に力点がおかれている。しかし、スモール・ビジネスでは、人材は欲しくても、充足できないという事情のなかで、大企業に比較して多様性のある人材を採用しなければならない。そして、この多様性は対立や破壊ではなく、創造性やイノベーションの源泉にすべきである。

3 相互信頼こそが採用の前提
・ところで、スモール・ビジネスにおいて人材調達を円滑に進めていくためには、どのようなことが必要なのであろうか。結論からいえば、それは採用する側と採用される側の相互信頼である。両者の間に信頼、信用などの感情ができあがることが大切である。
・そして、このような感情をつくりだすためには、採用する側が多様性つまり、ちがいを認め、採用される側にシンパシー(同情や同感)の念をもつことが大切である。甘やかす必要はないが、採用される側には「社会的弱者」といわれる人びともおり、かれらのことを本当に理解し、場合によってはしっかりとした支援を行うことが必要である。たとえば、子育て中の女性のためには、社内託児所をつくるとか、車イスの人にはスロープを設置することも大切になろう。スモール・ビジネスには負担が発生するが、そのような配慮が相互信頼のベースになる。
永続的成長企業ネットワーク 理事
横浜市立大学名誉教授  斎藤毅憲

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  • 開催日2019年11月5日
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