サロン情報詳細


【誌上テーマ別サロン】第48回 <基礎講座>   スモール・ビジネス経営者の地域への思い ―「中小企業経営学入門」(48)―

【誌上テーマ別サロン】第48回
<基礎講座>
スモール・ビジネス経営者の地域への思い
―「中小企業経営学入門」(48)―

1 2面性をもつ場としての“地域”
・スモール・ビジネスの経営者が主として対象としている特定の地域は、2面性をもっている。そのひとつは純粋に企業活動を行う場であり、この地域を中心にしてスモール・ビジネスの経営者は自社の活動を展開している。そこでの活動は経営者としての合理的な思考によっている。そして、もうひとつはこの地域で日々の生活を送っていることである。その多くには、家族や親族もいるであろうし、あるいは親しい友人や隣人とともに地域に定着して生活していることであろう。この生活の場には、その地域特有の慣習・文化や価値観などがあり、人びとの行動を制約しているが、スモール・ビジネスの経営者もおおむねそのようなものに従って考え、活動している。
・これに対して、勤務する地域を転勤する大企業のビジネスパーソンにとっては、地域は基本的に定住することがないものであり、一時的な居住、つまり仮住まいの場にすぎない。地域は仕事を行う場であっても、愛着心などの思いをもって定住する場にはならないのである。

2 2面性の処理に立ちむかうむずかしさ
・スモール・ビジネスの経営者は、合理的な思考によって企業活動を行っているが、地域に定住してきたとか、しているということから生まれる地域への思いもあるため、企業の利害と地域の利害が相反するような状況におかれたときには、判断に悩むことになる。どちらか一方を選択するのはたやすいが、2面性の感情があるので、どのように処理すべきかというむずかしさに立ちむかうことになる。
・大企業の地域からの撤退も大変な意思決定であるが、結局のところその企業の利害を重視した合理的な思考のもとで冷徹に行われる。しかし、スモール・ビジネスの経営者が同じような状況におかれた場合、2面性の感情があるので、最終的に同じ判断になるとしても、決定に至る過程は明らかにちがってくるのである。地域に密着して生活しているという思いが強ければ強いほど、地域の利害を考えざるをえなくなるのは当然のことであろう。企業側の合理的な思考だけでは割り切れないところがでてくるのは、いたしかたない。そして、そこにこそ、地域企業としてのスモール・ビジネスの存在感がある。

3 地域への思いをダウンさせるもの
・とはいえ、企業の経営があまりうまくいっていない場合には、地域への思いはあっても、どうしても企業の利害のほうを優先せざるをえない。自社の存続が大切なスモール・ビジネスにとって、それは当然のことである。小規模企業が大幅に減少し、スモール・ビジネスの経営上の苦境が今後もつづくとすれば、地域の衰退をおしとどめることはむずかしい。

永続的成長企業ネットワーク 理事
横浜市立大学名誉教授  斎藤毅憲

Information
  • 開催日2018年10月5日
  • 場所
  • 時間
  • 費用