【誌上テーマ別サロン】第131回 <基礎講座> 南部煎餅のイノベーション ―「中小企業経営学入門」(131)―
【誌上テーマ別サロン】第131回
<基礎講座>
南部煎餅のイノベーション
―「中小企業経営学入門」(131)―
1 岩手県の名産としての「南部煎餅」
・岩手県のおみやげとして、昔から重宝されてきたのが「南部煎餅(なんぶせんべい)」である。質素、素朴そのものの味であり、ゴマやピーナッツの2種類で、小麦が重要な原料である。この地は冷害の被害が多く、雑穀のウエイトが多く、お米はあまりとれなかった。県南の一関市は伊達藩に位置し、「モチの文化」が現在でもつづいているが、お米のとれないところではモチはイベントなどのときにのみ食べるものであった。岩手県の北部の地域になると、小麦を使った「南部煎餅」が「モチ」にかわり、食文化のひとつをつくりあげた。
2 巖手屋における製品革新と連携戦略
・小松シキが創業した巖手屋は、南部煎餅の製品革新(プロダクト・イノベーション)を行った代表例である。岩手県の北部・二戸市に会社はあるが、その代表例は「まめごろう」である。伝統的な南部煎餅とは、ピーナツに入っている点では同じであるものの、ほんのり甘いクッキータイプの生地と香ばしい豆の風味が入っており、伝統的なものとはまったくちがった商品になっている。バターが入っており、煎餅よりもクッキーといってよい。そして、ミニサイズの「ちび丸まめごろう」もある。
・「いかせんべい」、「りんごせんべい」、「かぼちゃせんべい」「抹茶みどりちゃん」、「納豆せんべい」「鬼割り明太子味」、「チョコ南部」など、商品のラインナップは、拡大している。地場のさまざまな原材料をできるだけ使用した商品づくりを実行している。
・同社の製品革新は、このほかにもあるが、南部煎餅のこれまでのイメージを一新させている。また、同社の経営にとって特徴的なのは、連携戦略をとっていることである。岩手県陸前高田市の老舗・醤油製造業者の矢木澤商店は東日本大震災の津波で大きい被害をうけたが、なんとか再生したのをきっかけにして、コラボ商品「まめ醤油せん」や「割りっこ醤油せんべい」などを製造し、販売している。
・そして、一関市のやはり老舗の京屋染物店の手染めの「あずま袋」を使った贈答品「夏のおつつみ」を発売している。なかに入っている煎餅をとりだした後は、エコバックとして長く利用できるもので、ここでも県内企業との連携を行っている。
・さらに、父の日プレゼントは、「おうちde乾杯セット」であり、自社製品と同じ地域の企業である南部美人(日本酒)とのつめあわせセットであり、ここでもコラボが行われている。このように、とくに二戸地域の他業種の企業との連携については熱心であり、リーダーシップを発揮している。
3 イノベーションへの絶えざる努力
・巖手屋の経営は、以上のように製品革新を中心にしてイノベーションへの努力を行ってきた。それにより、かなり多くの商品がつくりだされてきた。今後も、他社の追従を許さないこの努力をつづけるのであろうが、すべてが売れ筋になるとは考えられない。このようななかで製品の開発と中止(廃止)の選択が今後、重要な課題になると思われる。そして、他社との提携戦略については、今後もどのようなことができるかを構想し、具体化していくことが期待されている。
(2021.6.14稿)
永続的成長企業ネットワーク 理事
横浜市立大学名誉教授 斎藤毅憲
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