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【誌上テーマ別サロン】第123回 <基礎講座>   廃業瀬戸際での承継成功事例 ―「中小企業経営学入門」(123)―
【誌上テーマ別サロン】第123回
<基礎講座>
  廃業瀬戸際での承継成功事例
―「中小企業経営学入門」(123)―
1 「廃業瀬戸際」というリスクのもとでの承継
・経営的にうまくいっておらず、業績が悪ければ当然のことながら後継者があらわれない。これはある意味で、ごく普通のことであろう。この場合、いわば企業は廃業の瀬戸際にあるから、承継者にとってリスクはきわめて大きく、これを強いて引きうける人はほとんどいないといってよい。
・「ゼロからの出発」という言葉があるが、それはまさに「マイナスからの出発」であり、承継者にとってはきわめて挑戦的といえる。経営的にうまくいっており、起業家の「ゼロからの出発」ではなく、「プラスからの出発」であれば承継はしやすいのかもしれないが、きびしいマイナスからの出発は確かにリスキーなのである。
2 陣屋の成功事例
・老舗旅館 陣屋の事例は、廃業状態のもとでの承継の成功事例となるであろう。神奈川県秦野市にある陣屋は、鶴巻温泉として知られたところにあり、創業100年の温泉旅館である。1万坪の広大な敷地には18の客室があり、プロ将棋界などのタイトル戦の会場としてもよく利用されている。
・宮崎富夫と妻・知子は同社の後継者として家にもどり、2009年に入社しているが、当時は巨額の債務をかかえており、まさに廃業の瀬戸際にあった。大企業に勤務していた富夫は当初承継を考えていなかったが、20年、30年をかけてビジネスすれば、なんとか債務は返済できると判断して、承継している。
・大企業での勤務では巨額の返済は不可能でも、2人で知恵をだして経営すればなんとか経営できると考えたのであろう。おそらく、確立したブランド名や信用力にくわえて、東京大都市圏での立地の優位性から現状では財務的にはきびしいが、経営のやり方しだいでは再生が可能と判断したものと思われる。
3 経営改革、働き方改革による“希望のもてる仕事”へ
・後継者はITを駆使し、すべてのスタッフがタブレット端末をもち、情報の共有化をはかる経営改革、働き方改革を実施している。入社から10年たつが、2年後には黒字に転換し、売上高も倍増している。そして、スタッフ数も大幅に削減している。
・「勝算6割」というスモール・スタートアップを経営的には大切にしている。これは小さく(スモールに)始めれば、たとえ失敗しても修正ができるし、白紙にもできるという考え方であり、これによって利益があがる旅館業にするだけでなく、“希望のもてる仕事”の変えようとしている。月曜から水曜日まで休館するなどの、働き方改革は旅館業にめずらしく、その一例になる。
・この事例では無理と思われても、承継に成功している。経営のおもしろさは、まさにここにある。
(2019.9.23稿)
永続的成長企業ネットワーク 理事
横浜市立大学名誉教授  斎藤毅憲
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  • 開催日2023年6月5日
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