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【誌上テーマ別サロン】第118回 <基礎講座>   地域イノベーションを推進する「寺院」 ―「中小企業経営学入門」(118)―
【誌上テーマ別サロン】第118回
<基礎講座>
  地域イノベーションを推進する「寺院」
―「中小企業経営学入門」(118)―
1 「お葬式」ビジネスからの脱却を!
・寺院もスモール・ビジネスの一種であり、経営が必要である。「お葬式」だけを行っているだけでは存続はむずかしくなるであろう。この本業だけでも、そこそこ経営はできるであろう。高齢化社会が到来して久しく、現在は「多死化」の時代でもあるので、ふきんしんないい方になるが、「市場」は大きい。
・もっとも、家族葬のように、多くの知人や関係者が集めたこれまでのものとはちがった少人数のお葬式が現在では一般的になっている。お葬式は、かつては一大イベントであったが、現在ではきわめて親しい人だけで行われるものに変わっている。
・また、寺院を使用せずに、葬祭用の専用ホールなどで行うことも多くなっており、寺院や僧侶ばなれの傾向は明らかに進んでいる。
・このような環境のなかで、寺院は本業自体をどのように展開するか、とともに、この本業からどのように脱却するか、を検討していくことがもとめられている。
2 「生きている人間」の救済
・脱却の視点は、現に生きている人間を救済することである。これ以外に考えられるものはない。生きている人間は心配事をもち、悩みをかかえている。それを対処していくことが寺院や僧侶にはもとめられている。
・川崎市多摩区にある信行寺の石丸恒平住職は、若者のまちである東京の代官山に「寺カフェ代官山」を開設し、生きている人間の救済にあたっている。東京の丸の内で6年ほど前に、2週間の期間限定で寺カフェを開店し、多くの人びとが集まったという。そして、悩みをもつ人びとをサポートする場が必要であることを実感している。
・店内には阿弥陀仏像が安置され、心が落ちつくような施設になっている。町なかにあり、寺院に行かなくてもいいので、気軽なイメージになっている。僧侶が約10名参加しており、交替で利用者に対応している。
・相談業務を中心にして、生きている人間の救済にあたっているが、写経や念珠づくりの体験もできる。また、食事やスイーツも提供されており、日本文化を知りたい外国人客も多くなっている。
3 地域イノベーションの期待
・「生きている人間の救済」を寺院が行うことになると、それを通じた地域イノベーションが推進されることが期待される。かつて神社や寺院は地域にとって大切なプラットホームであったが、寺院が地域の拠点として活用されるようになると、それは地域の活性化につながることは明らかである。
・寺院ばなれのなかで、本業のお葬式をどのように行うのか、そして地域の生きている人間のために、なにができるか、を考え、具体化することが僧職の人びとには求められている。合掌。
(2019.7.30稿)
永続的成長企業ネットワーク 理事
横浜市立大学名誉教授  斎藤毅憲
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  • 開催日2023年1月5日
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