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<マイ・オピニオン:[帰省日記]> 『郷里の商店街に思う(15)』

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『郷里の商店街に思う(15)』

・10連休に入る前の4,5日間帰省した。新幹線(やまびこ)は車内販売をやめてしまったので、一寸さびしい。あまり売れていない感じであったので、仕方がないのだろう。となり町の桜の名所を観てきた中国人の一団が乗りこんできた。私の郷里には空港があり、台湾との便が飛んでいるので、台湾の観光客が多いが、大陸の人のように思えた。
・花がいろいろ咲きはじめ、木の新芽にはまだ強烈さはないが、美しい季節である。長い冬が確実に終わったと思わせる。
・かつてのメイン・ストリートを見にいった。昭和レトロの旧マルカン百貨店の大食堂の復活は、全国的に有名になったが、ビルの老朽化と地震対策の不備で依然として問題をかかえている。夜は6時がラスト・オーダーなので、客は少ないが、昼間はかなりの集客がある。ここから衰退したメイン・ストリートを見ると、物販の魅力ある店舗が少ない。書店、呉服店、酒類販売の代表的な店舗がなくなって久しく、駐車場が高齢者施設に変わっていたが、新たに災害公営住宅が30戸分建設され、入居がはじまっていた。かつての「花巻商人」の代表であった老舗が、なくなってしまったことを実感させられた。
・商業施設ではなく、災害公営住宅をこの地に必要なのかと思ったが、メイン・ストリート周辺の人口減対策なのであろうか。メイン・ストリート周辺は、商業施設の衰退だけでなく、人口の減少がはげしくなっている。災害公営住宅の一棟の1階には、コンビニが入っている。歩行範囲にあるこのあたりには食を支える店舗はきわめて少なく、鮮魚などを中心とした食料品店、果物屋、お茶屋があるぐらいなのである。昭和レトロの旧百貨店は、1階と上層の大食堂しか営業していないから、集客力にとぼしいといわざるをえない。
・かつて県立病院があったところに、総合病院が新たに建設され、その大きさが目立っている。年内に完成するようであるが、郊外部に移転した県立病院の不便さを感じていた住民にはメリットがある。町中に人は集まるようになるだろうが、新病院にはショッピング用の店舗やレストランができると思われるので、思ったほどメイン・ストリートに集客力が回復するとは考えにくい。
・それにしても、大食堂から下の通りを見ていると、どこの地方の町も同じであろうが、人は歩いていないものの、車のほうは多いのである。それは地方では「車なしの生活」は考えられないことを示している。しかも、個人用のものになっているから、小型車のウエイトが高い。
・別の日に、家のそばにある郊外部のショッピング・モールを見た。スーパーマーケットは堅調で、駐車場の車も多い。しかし、DIYなどは店舗の大きさに比較すると、明らかに客数は少ない。また、朝や晩に周辺のコンビニを見たが、そこそこ客が入っている。もっとも、客単価は高くないように見えたので、経営の実態はわからない。まして、夜間遅くには出むいていないので、「残酷コンビニ物語」は感知できていない。
・今回は、地元の経営者のふたりと話をしてきた。ひとりは大体帰省すると、時間をさいてつきあってくれる高校時代の友人である。自分のビジネスのことだけでなく、町のことを教えてくれる。きわめてありがたい存在である。地元の商工会議所の会頭の役を30年以上行ってきた高校の一級後輩の告別式のこともそのひとつであり、私は残念ながら出席できなかった。町の有力者として、長年貢献してきた人のことを思い、心で合掌し、残念な気持ちで一杯になった。
・もうひとりは、市内に2か所プールをもっている経営者で、家のそばに住んでいる人である。昼はプールの経営を行い、夕方からコーヒーショップをみずから営業している。京都出身のいわば“ヨソ者”であるが、地元の女性と結婚して長く、経営者のセンスと外部者の見方があっておもしろい。町づくりだけでなく、となりの町に進出する東芝メモリの経営をめぐって話ができた。
・東芝メモリは従業員規模が大きいが、現状は人手不足で、集まり方は思ったほどよくないようである。また、となりの町は住宅用の用地は少なく、わたしの町が住宅地として期待されているらしい。確かに、コーヒーショップのそばにも、持家やアパートの建設がすすんでいる。車があると、5分から10分もあれば、会社に行ける場所なのである。私の家の周辺は住宅が増え、子どももいるので、例のショッピング・モールは今後もそこそこの線で、いくのかと思った。

           永続的成長企業ネットワーク 理事
横浜市立大学名誉教授  斎藤毅憲
[2019.5.16記]