<マイ・オピニオン:[帰省日記]>
『郷里の商店街に思う(13)』
・今秋は久しぶりに大変な思いをした。地方の衰退をどうしたらいいかを考え、来春刊行予定の「地域経営学」の教科書づくりに追われていたからである。頭が一杯で、帰省のことを考えるヒマがなかった。やっと時間ができたのが、11月中旬からである。今年は例年になく寒さが早く、実家の水まわりのことが心配になり、11月21日にあわてて帰省した。確かに思った以上に寒く、この日の朝も雪が降っている。
・まちに夕方出るのをやめ、帰省の折はよくいく国道4号線沿いのショッピング・モールで夕食を買いにいく。国道4号線に出る直前に、コーヒーを飲ませてくれるカフェがある。開店しているのがめずらしく、閉まっていることが多い店であるが、ちょっと入ってみることにした。隣りのお赤飯やだんごをつくって売っている店には立ち寄ることはあったが、これまでほとんど入ったことがなかった。
・アルファベットで“ハミングバード”と店名がかかれている。入ると、広くはないが、すてきな空間である。私よりも若い60代と思われるマスターがでてきた。初対面であるが、客はいないので、カウンターごしに1対1で話すことができた。京都出身で、私の実家に近いところに住まいがあり、地元の人と結婚したという。市内に2つのプールを経営しており、カフェはコーヒーが好きで行った趣味的なものであるようだ。午後3時以降が開店であるというから、確かによく閉まっているという私の印象はまちがっていない。もっとも、婚活のお見合い場や、歌声喫茶(月1回)にも利用され、カフェの「多目的な利用」が行われている。確かに地域における小さなパーティやイベントにカフェが活用されることはよいことだと思った。
・翌日の夕方、かつてのメイン・ストリートに散歩にでかけた。水曜日はお休みの店が多く、再生した昭和レトロのレストランも、いつも行くワンコソバ屋さんも開いていない。ワンコソバ屋のそばにあるホテルで夕食をとる。5時すぎのレストランは“ガラガラ”である。「予約」の席はあるが、夕食の時間帯としては早すぎるのであろう。もっとも、5時半をすぎると、2階や3階で行われるパーティーに参加する人びと(男性)がぞくぞく集まってくる。駐車場に車が入ってくるのがわかる。ホテルがパーティーに利用されていることを改めて確認することができた。
・6時すぎると、まっくらになってしまい、ホテルをでて、寒い夜のまちを少しみてまわった。来客はまだない時間帯であるが、ネオン街になると、まちは昼間とちがって、輝きを増しているように見える。店の興亡は激しいようだが、残っている店が結構あるから、そこそこ経営を維持しているのかと思った。
・23日は「勤労感謝の日」で、朝、国道4号線で駅伝が行われるというので見に行った。一ノ関市から出発して盛岡市を到着点とする地元メディア主催の大会で、社会人と高校生の約30チームが参加している。ハミング・バードと、その先にあるコンビニの間で選手を見ていた。町はずれといったところなので、住宅は必ずしも多くはないが、人びとがでてきて、地元のチームだけでなく、どの選手にも応援している。思っていた以上の人びとが集まっており、イベントはやはり人を集める力があることを実感できた。
・駅伝を見たあと、すぐにそばのショッピング・モールで、地域ブランドの里イモと、チューリップの球根を買う。里イモは、北上川のおかげで肥よくになった土地で作られたもので、地元ではよく知られている。現在、全国どこでも「地域ブランド品」づくりが盛んに行われているが、このイモもその一例であろうか。もっとも、全国的なブランドにするには、供給量などの面でかなりの制約があるように思えた。
・夜はいつものワンコソバ屋で夕食をとり、そのあとハミング・バードに行き、マスターとまた話し、楽しいひとときを過した。この日も客はだれもいなかったので貸切りの状態であった。それは、大都市の人の集まるカフェではあまり見られない光景であろうか。2回しか会っていないが、わだかまりなく、昔から知っている人間どおしのようにコミュニケーションできたように感じた。
・24日、地元の経営者として活躍している高校の同級生で親しくしていただいている友人とJR在来線の駅前ホテルで昼食をとり、新幹線の駅まで送ってもらって帰浜した。「駅や駅前(周辺)は、まちの衰退を象徴的に示している」と思っている。その意味では、新幹線が在来線に併設されていないので、駅自体はさびれてしまったが、駅前自体はかなり整備されて健闘しているように思われた。公共施設の図書館が、駅周辺につくられると聞いているので、駅周辺の商店街は将来的にはもう少し発展するように思われた。
永続的成長企業ネットワーク 理事
横浜市立大学名誉教授 斎藤毅憲
[2017.12.14 記]