<マイ・オピニオン:[商店街よ!元気になーれ]>
商店街活性化のニューウェイブ
――横浜市港北区の「ちょいつまみウォーク」の試み――
1 活性化のための試み
・2015年11月28日に横浜市港北区で行われた「第1回ちょいつまみウォーク」も、商店街活性化の試みの一例として注目すべきである。港北区役所地域振興課と同区商店街連合会の主催であり、区内の9つの商店街をウォークしつつ、個店でちょっとした食物をつまんだり、商品をもらえるイベントである。地元商店街のもっている良さを地域の人びとにわかってもらえることを目的にして開催され、参加費は無料である。港北区外の市民も参加でき、先着800名が定員になっている。配布された7枚のチケットを使って気に入った食品や物品をもらえるようになっている。一口カツ、コロッケ、シウマイ、ヤキトリ、ドーナツ、ミカン、靴下、ハンカチ、タオル、入浴剤などがその例となる。
・受付でチケットと商店街やコースのマップをうけとり、その後は自由に歩き、チケットと交換で食品や物品をもらえるほか、当然のことながらショッピングや飲食していいことになっている。参加した商店街は妙蓮寺ニコニコ会、仲手原商店街、菊名池畔商店街、菊名東口商栄会、大倉山商店街振興組合、大曾根商店街、綱島商店街連合会、南日吉商店会、高田中央商工会の9つであり、東急東横線の妙蓮寺を北方に向かい、菊名、大倉山、綱島、日吉を経て、高田町に至る約12キロのコースで、参加した個店数は合計59店になっている。
2 調査結果からわかったこと
・このイベントの企画かかわった港北区地域振興課が実施したアンケート調査の結果をみせてもらった。そこには、商店街活性化のヒントがある。
・商店街の個店の回答にはネガティブな反応もあるが、この企画におおむね好意的であった。「来街者がふだんより多い」が約6割になっており、「ふだんと変わらない」の4割よりも多く、とりあえず来街者が多いことで成功したとみている店舗が好意的な反応をしているのかもしれない。
・このイベントに参加した人間に対する「買物をしたかどうか」の調査によると、大体6対4であり、買物した参加者が若干多いにすぎない。ちょいもらいをしながらウォークするのが目的で、ショッピングは2次的であったように思われる。集客だけでなく、購買にも多くを期待していたとすれば、ネガティブな反応が個店の側で生じたとしても、それはいたしかたないことであろう。
・さて、ちょいもらいの対象となるものはどうしても食品が中心になっており、物品は少ない。しかも食品といっても参加者への提供数が多い店と少ない店との格差が結構みられており、予定していたのに提供できなかった店舗では期待したほどの成果があがらなかったという思いがあったのかもしれない。これに対して、予定していたものがほとんど提供できた店や購入があった店はよかったと思い、好意的な反応をしているであろう。
・今回の企画で店内に参加者を誘導する工夫や対応をとったかについても調査されている。「店先にテーブルをおいてちょいつまみの商品を提供した」が「店内にテーブルを用意した」と「店内のカウンター」よりも多く、これでは店内に入ってくれる可能性は少ないと感じられる。
・また、この商品の提供の際の工夫については「参加者に話しかける」がもっとも多くなっている。そして、「商品の売りを紹介」、「一緒に商品を並べて販売」なども行っている。店主や店員とのコミュニケーションが小売店舗の売り方を特徴づけるものであり、これが“強み”である。印象としては、この強みをさらに発揮してほしい。この話しかけることによるコミュニケーションは、もっとも多い工夫になっているものの、もっと強化していかなければならない。そうでなければ来店しようという意欲をそぐことになる。
・要するに、個店の店主や店員とのコミュニケーションや人的交流をおもしろいとか、楽しいとか、刺激的であると参加者に感じさせることがこの種のイベントでは大切なのである。ちょいつまみウォークは商品をもらいながら歩きまわることが目的であるが、個店にとってはウォークさせずに自店内にとどめおく工夫が必要である。
・商店街の行うイベントは、集客には結びつくが、購買行動にまでにはならないともいわれる。集客になっても買物にならなければ個店にはメリットにはならない。そこで、ちょっとした工夫を行うことで、店内に入ってもらうようにする必要がある。そして、おそらくは、このちょっとした工夫が提供する予定の商品数と実際の提供数のギャップを少なくしたり、大きくしたりするものと思っている。個店―とくに提供数の少なかったお店―には次回にむけての工夫の検討が是非とも必要となる。
・参加者の調査では、「商品の提供をうけたのは、はじめて利用した店である」が98%であり、今後もこのようなイベントに「参加したい」が9割前後になっている。これによると、これまで利用してこなかった店舗が利用されており、個店と商店街の認知度にアップにつながっている。また、今後も参加したいという意欲ももっている人がほとんどであり、このイベントの継続は求められている。主催者には、次回にむけての活動が期待されている。
・なお、参加者の自由記入は、イベントのアクターである個店の回答ほどには多くない。しかし、対応の良かった個店のことが書かれており、好評な店舗と商品名が具体的に示されている。商店街のなかでは、少数であるが大曾根商店街が良かったという評価があった。これに関連して、それぞれの参加商店街が少し競争意識をもって評価をいっそう高める努力をいっそう展開してほしい。
3 若干の評価
・港北区で行われた商店街活性化の試みは、2003年から松坂市でスタートした「まちゼミ」、2010年代に入って藤沢市からはじまった「ちょいのみフェスタ」などとならぶものと考えている。そして、神奈川県と商連かながわが行っている「商店街ツアー」とはウォークという面では共通しているニューウェイブといってよい。商店街ツアーは、どちらかという県内のアクティブな商店街のウォークになっているのに対して、ちょいつまみは港北区という地域的な限定のなかで、しかも食品や物品の無料提供を行っている点でちがいがあり、特徴にもなっている。
・今回は初回であり、今回の経験をふまえて、次回さらに発展してもらいたいものである。とくに個店には自店舗に参加者を誘導し、とどめるという工夫を行うことができれば買物率を高めることができるであろう。港北区の商店街よ!さらにいっそう元気になれといいたい。
永続的成長企業ネットワーク 理事
横浜市立大学名誉教授・放送大学客員教授
斎藤毅憲
[2016.4.15]