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[特別企画]『「本」からみた横浜の経営者(第8回)』

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[特別企画]
『「本」からみた横浜の経営者(第8回)』

渡邉美樹(2010)『きみはなぜ働くか。』日本経済新聞社刊

・この人の名前を知らない人はおそらくいないであろう。横浜出身であるが、全国区の経営者である。ワタミの創業者が若い人びとに贈る88の言葉がかかれている。母親の死去、それにつづく父親が経営していた企業の失敗は、彼の生活を一変させることになる。父親のリベンジを果たすべく、「おとなになったら会社の社長になる」とし、小学校5年のときに起業を決意する。それ以降、この目標にむかって、「夢に日付(ひづけ)」という段階的に目標を達成していく努力を展開し、今日に至っている。
・経営者として仕事や人生をどのように考えるべきかを、きわめてやさしい言葉で吐露している。
・第1章の「きみたちは人生の主人公なんだ!」には、18のメッセージがある。ここには「夢に日付を」という目標達成の方法論の意味も示されている。私の関心を引いたものに「鋭にして鈍」なれがある。そして、「鋭にして鋭」や「鈍にして鋭」は「鈍にして鈍」よりも悪いという。確かに、そうと思う。
・第2章は「感謝、感動を忘れた人間になるな」で、19項目のメッセージがあげられている。この項目の最後は「謝る人はカッコイイ」でしめくくっており、きちんと謝ることができる人間は大成するという。過ちや失敗にどう対処するかが働く人間にとって重要であることを述べている。
・第3章の「シゴトは手段じゃない、きみたちの人生だ」には、23のメッセージがのっている。働くことが本書のテーマであることからいえば、多いのは当然であろう。冒頭での「仕事と思うな、人生と思え」の説明は、説得力のあるものになっている。ここでもおもしろい言葉が多いが、「プロのシゴトに「裏ワザ」はない」が興味を引いた。仕事には裏も表もなく、すべてが表ワザであるという。そして、この章を読むと、サービス業の仕事のあり方を教えられる。
・第4章は「豊かなこの国に生まれたきみたちへ」であり、環境・教育・介護を中心にしたメッセージが12項目リスト・アップされている。ワタミのサラダはただのサラダではなく、農薬の少ない野菜を使った特別のものであると述べている。健康や安全に配慮していることを重視しているといい、「ゴミの分別に執念を持て!」ともいう。そして、教育については、「自分からあいさつをしない人間は、幸せになることができない」とし、大きな声で人に接することを力説している。学校の理事長にもなった渡邉がとくに大切にしているのが、あいさつである。
・最後の第5章は、「地球上で一番たくさんの「ありがとう」を!」であり、17のメッセージがのっている。「まずは心から、プロになれ」、「仕事をするということは、誰かの人生の一部に深く関わることなんだ」など、仕事に対する報酬とか結果の意味などが示されている。要は、ワタミはたくさんの「ありがとう」を利用者からいってもらえるような企業になりたいことを表明している。
・外食(居酒屋)から出発したワタミであるが、その後、介護、農業、環境、教育などへと事業分野(ドメイン)の拡張をはかってきた。分野によってはビジネス化がむずかしいようにも思える。しかし、社会にある各種の問題をビジネス的に解決していこうという渡邉には、企業経営者の顔だけでなく、「社会起業家」の姿がダブッテ見えてくる。それは、父親のリベンジを夢見ていたステージではなく、深刻化している社会問題の解決に立ち向う社会起業家のものである。そこには、企業経営者としての成熟から生じる新たなステージへの移行がみられる。本書は、このような成熟がつくりだした成果であり、キャリア開発を考えている若者にとって貴重である。

永続的成長企業ネットワーク 理事
横浜市立大学名誉教授  斎藤毅憲