[特別コラム:第9回]
『第9回 障がい者を戦力にする!<マッチング>』
1. 効果的訓練はマッチングから
・前回、知的障がい者を一流の職人に育てている株式会社羽後鍍金(うごめっき)に触れました。健常者であっても、一人前の職人に育てるのは大変です。そこには、障がい者を支える社内の人間関係やそれを生む社風があるであろうことは容易に想像できます。
・しかし、羽後鍍金の場合、それにとどまらないノウハウがあります。それがマッチングです。
2.羽後鍍金のマッチング戦略
・マッチングとは、(種類の異なるものを)組み合わせることや、データなどを照合することを言い、仕事に関するマッチングとは、ある人とその人に合う仕事や会社を探し、結び付けることを言いますが、ある人と仕事との相性を言う場合もあります。
・障がい者であろうと、健常者であろうと、自分に合った仕事、もしくは、能力を発揮できる仕事であれば、上達も早く、成果も出しやすいので、面白いと思えたり、やりがいを感じたりすることができます。やりがいや面白さを感じれば、さらに仕事にのめりこみますから、上達もし、成果も上がってきます。一流の職人に育てることもできるでしょう。
・そこで、羽後鍍金では、毎年実習をたくさん受け入れ、マッチングを見るのです。仕事や会社に合う「この人は」という人がいれば、採用へと話しを展開していくのです。
3. 毎朝の調子もチェック
・三重県にあるユーユーハウス株式会社では、たくさんの精神障がい者や知的障がい者がシイタケやイチゴを栽培し、近隣のケーキ屋におろしたり、市場で販売したりしています。農業は、自然を相手にするために、障がい者に合っている、よいと言われることも多いのですが、さまざまな作業があり、障がいに合った仕事を切り出しやすい面があります。
・例えば、人と話すのが苦手な障がい者は、一人で黙々と行わなければならないような作業に就いてもらうことができますし、明るいのがだめな場合は、暗い倉庫での作業をお願いできます。
・しかし、ユーユーハウスが徹底しているのは、朝の体調や様子で、作業を割り振っている点です。体調がすぐれない場合、軽い仕事を回せば、翌日まで引きずる可能性も低くなります。障がい者は、あまり無理をすると、体調を崩し、入院措置が必要になることもあります。そうなると、労働力が確保できなくなりますから、ユーユーハウスにとっても重要なことなのです。
*ユーユーハウスの情報は以下です。
http://kaikan.yuyu.ne.jp/facilities/mushroom/index.html#A
4. SPIS(エスピス)
・精神障がい者は、人によって障がいをの状況が異なるという多様性の度合いが高く、しかも、調子を崩したり、症状が不安定であったりすることも多く、マッチングと言っても簡単ではありませんし、そもそも、仕事の継続すら、難しくなることも少なくありません。
・SPISは、精神障がい者や発達障がい者の職場定着を促す目的で開発され、運用されているツールです。パソコンでSPISのページにアクセスすると、生活面・社会面・仕事面に関して、障がい者が自分の状態を4段階で評価して入力するようになっています。毎日入力してもらい、それを職場の上司や精神保健福祉士、医師などがチェックすることで、細かく体調などを見ながら、声をかけたり、サポートしたりすることができます。
・毎日の体調を見て、対応するということではユーユーハウスの対応と同じということもできますが、一般的には、SPISは、障がい者が仕事をしやすい、もしくは、継続しやすい状況を生み出すためのツールとして用いられていますから、その点では、SPISの運用は、先の「合理的配慮」と言ってもよいでしょう。
*SPISの解説は、以下にあります。
http://www.spis.jp/
http://www.okushin.net/pdf/seminar20130810.pdf
永続的成長企業ネットワーク 理事
横浜市立大学教授 影山 摩子弥