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[特別コラム:第4回]『労働生産性の計算式の問題点』

[特別コラム:第4回]『労働生産性の計算式の問題点』

1.計算式の問題点
第2回目に、ある会社もしくはある国の労働生産性は、次のように計算するとお話ししました。

〔 労働生産性 = 会社もしくは国全体の付加価値額/従業員数 〕

「組織内マクロ労働生産性」に着目すると、この計算式には、注意せねばならないことがあることに気が付きます。
会社全体もしくは国全体が生み出した付加価値には、個々の従業員のがんばりや能力によるものもありますが、相互に影響を与え合うシナジー効果によるものもあるはずです。つまり、この式で算出される労働生産性には、「組織内ミクロ労働生産性」と「組織内マクロ労働生産性」の両方が含まれているのです。
しかし、この計算式では、シナジー効果を含む付加価値額を従業員数で割ることによって、一人一人の労働生産性に解消する構図になっています。その結果、マクロ的効果(シナジー効果)が見えなくなってしまっているのです。

2.見えにくいシナジー効果
しかし、人間が相互に影響を与え合うことによる効果のみを取り出して測定することは簡単ではありません。同じような能力を持った人々のグループを2つ作り、コミュニケーションがある場合とない場合で、生産性が異なるかを比べたり、ということはあるかもしれません。
もちろん、日々の経営の中で、社員同士の中がよく、コミュニケーションが取れているとよい仕事をする、社内の風通しが良いと業績にも影響するということを、直感的につかんでいる経営者もいます。しかし、実験室のような状況を作り出さない限り、日々の経営や仕事の中で、誰の目にも見える形で「組織内マクロ労働生産性」の部分だけが見えてくるということは、まずありません。
それゆえ、「組織内ミクロ労働生産性」に目を奪われ、一人一人の労働生産性を上げようという方策が展開することになるのです。その典型的な失敗例が、成果主義なのです。

3.シナジー効果をつぶす成果主義
1点だけ、付け加えておきたいことがあります。成果主義の問題点です。
単純に、個々の従業員の働きと結果を結び付けることができるような作業や仕事でない限り、成果主義は、社員のやる気を失わせたり、会社に対する求心力を損なうことになります。しかし、それだけではありません。
成果主義の下では、社員相互が競争相手です。同僚に有利な情報を与えて大きな契約が成立しても、自分は評価されず、同僚だけが評価されることになります。そこで、社員間のコミュニケーションが悪くなり、シナジー効果も失われるのです。評価というのであれば、同僚の成果につながる情報を与えた人間も、評価されねばならないのです。

現代では、組織内マクロ労働生産性を視野に入れて、雇用の制度や職場環境の設計、人財の育成を考えてゆく必要があります。
雇用にかかわるそのような経営戦略の1つとして有効であるのが、なんと、障がい者雇用なのです。

永続的成長企業ネットワーク 理事
横浜市立大学教授   影山摩子弥