[特別コラム:第17回]
『第17回 障がい者雇用が生む経営改善効果<人材育成力の形成>』
1. 中小企業のOJT
・中小企業の場合、ヒトもカネもタイトであるため、独立の人事部があり、多くの社員がそこに張り付いているということは、まずありません。人事担当がいたとしても、たいていほかの業務とかけもちです。また、充実した研修やテキストといった人材育成プログラムがあるわけではなく、OJT(On the Job Training)で育てています。つまり、仕事に入ってもらい、その中で育てるのです。
・大企業では、終身雇用が一般的でしたが、中小企業はそうではありませんでした。他社で業務を経験した者を中途採用する場合が一般的であったと言ってよいでしょう。同じ業界であれば、他社との違いを把握してもらえばよいですから、むしろ業務の中で伝えた方が分かり易い場合も多いでしょう。他業界からの転職でも、職種によっては応用が利き、適応しやすい場合もありますから、OJTは、有効な人材育成方法なわけです。
2.中小企業の課題
・ただ、新卒者や全く異なる業界にいた者、応用が利きにくい職種などの場合には、必ずしも有効とは言えません。そのような経験があまりない中小企業において、一から丁寧に育てるノウハウがあるとは言いにくい面があります。
・その課題が噴出するのは、リーマンショックなどのように、急激に大きな景気後退が生じたような場合です。新卒者や、まったく異なる業界の、しかも、大企業を退職した者が志望してくる、といったことが起こることもあるのです。優秀な人材なら採用するでしょうが、その人材を育てることができるかというと、手に余る場合もあるのです。そうすると、職場に適応できなかったり、疎外感を感じたりして、ほどなく辞めてしまうことにもなります。
3. 障がい者を育てる
・第8回で、障がい者を戦力にするために、教育・訓練するというお話をしました。知的障がい者に、同時に複数のことを指示しても消化できません。一生懸命教えたことも、翌日にはすべて忘れてしまっているということもよくあります。
・伝えるべきことを整理し、絵なども使い、順を追って、分かり易く伝える必要があります。業務内の指示も同様で、分かり易くはっきり伝えねばなりません。聴覚障がい者に対して、後ろから声をかけたり、横を向いて声をかけても、伝わりません。
・障がい者を訓練する中で、伝える工夫、わかってもらう工夫、そのための辛抱強い努力が形成されます。そのノウハウは、新卒者や適応しにくい中途採用者にも応用できます。
4. 人材育成ノウハウの形成ルート
・障がい者の雇用や実習だけではなく、大学生のインターンシップや高校生のバイターン(バイトとインターンの融合で、バイト代をもらいながらインターンを行う形態)も、人材育成力の形成につながります。しかも、実習やインターンシップ、バイターンでしたら、雇用しているわけではないので、たとえ、会社や仕事に合わない者だった場合でも、一定期間後に返すことができます。
永続的成長企業ネットワーク 理事
横浜市立大学教授 影山 摩子弥