1.付加価値と労働生産性
第2回と第4回で、労働生産性の話をしました。労働生産性は、以下の式で表現されます。
〔 労働生産性 = 会社全体の付加価値額/従業員数 〕
・つまり、ある会社の労働生産性とは、他の表現方法もありますが、付加価値を従業員数で割ったものなのです。したがって、付加価値額が大きくなれば、労働生産性が改善したことになります。また、別の観点を組み込むと、付加価値が大きくなっても、コストが変わらないか、付加価値の増加を凌駕しなければ、費用対効果の改善につながったことになります。
・もし、それまで、誰にでもできる、簡単な、付加価値が低い仕事と思われていた仕事が、突然付加価値が高くなったとしたら、どうでしょう。まさに労働生産性の改善、費用対効果の改善が生ずることになります。
・単なる石ころだと思っていたものが、ダイヤの原石だったということです。でも、そんなことがあるのでしょうか?
2.危機一髪
・都内にあるサンクステンプ株式会社は、テンプホールディングス株式会社の特例子会社です。データ入力や筆耕サービスなどの業務支援、DM発送などのサプライセンター、パソコンスクールの運営、リフレッシュルームの運営や清掃業務などのオフィスサービス、クッキーの製造などを事業としています。
・その中で、親会社の清掃業務も請け負い、親会社のオフィスから出るごみの片づけも行っていました。知的障がい者が作業を担っていました。
・ある時、親会社内から、誰にでもできるごみの片づけなど、コストがかかる特例子会社に任せず、委託に出した方が安くできる、との声が上がりました。重大問題です。障がいの特性によっては、判断力や思考力が要求される業務につけない場合もあり、ごみの回収は手放すことができない業務です。しかし、経済状況が厳しい中、できるコストの削減を図る努力をどの会社でもしており、昨今の状況からすれば、親会社が言うことも、理不尽とは言えません。どうしたらよいのでしょう。
3.ダイヤの原石
・サンクステンプの人事企画本部長井上卓巳さんは、妙案を考えました。「ごみの回収」ではなく、「情報セキュリティだ」というロジックです。情報セキュリティなら重要度が高く、付加価値が高い作業となります。ということは、費用対効果や労働生産性の改善に導けます。特に、目を引くポイントは、極端な言い方をすれば、何か特別なことを付加しなくても、現在の業務のままで、そのような効果を導くことができる点です。
・しかも、情報セキュリティということになると、外部委託はリスクを高めます。誰に任せてもよい作業というわけにはいきません。だから子会社にということになるのですが、加えて、知的障がい者だからこそ、高度の情報セキュリティが可能になるのです。そこで、障がい者を雇用する特例子会社に任せる意味が出てきます。まさに、サンクステンプは、親会社にとってダイヤの原石であったのです。
・では、なぜ、障がい者なのでしょうか?
*次のサイトに、サンクステンプの井上さんが出ています。
http://www.wahho.jp/job/interview_001
永続的成長企業ネットワーク 理事
横浜市立大学教授 影山 摩子弥