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[永続企業へのヒント:この一冊] ~塚越寛『リストラなしの「年輪経営」』光文社~
[永続企業へのヒント:この一冊]
~塚越寛『リストラなしの「年輪経営」』光文社~
・著者の塚越寛氏は、1937年、長野県駒ケ根市生まれ。伊那北高校を肺結核のため中退。1958年、伊那食品工業株式会社に入社。1983年、伊那食品工業株式会社代表取締役社長に就任。2005年3月、伊那食品工業株式会社代表取締役会長に就任。相場商品だった寒天の安定供給体制を確立し、医療、バイオ、介護食などに新たな市場を開拓した功績が認められ、1996年に、「黄綬褒章」を受章。また、1958年の会社設立から48年間連続の増収増員増益を達成し、その財務内容および理念と実績、将来性などが総合的に高く評価され、2002年に、中堅・中小企業の優れた経営者を表彰する「優秀経営者顕彰制度(日刊工業新聞社)の最高賞「最優秀経営者賞」を受賞。著書に『いい会社をつくりましょう』(文屋)、共著に『幸福への原点回帰』(文屋)。2011年に旭日小受章を受章。[著者プロフィールより](2014年出版時)。
伊那食品工業
・1958年、長野県伊那市に業務用粉末寒天の製造会社として創業する。現在は、業務用に加え、家庭用に「かんてんぱぱ」ブランド、外食向け「イナショク」ブランド、さらにファインケミカル分野へと市場を開拓、取り扱い品目は1000種類を超える。1970年代から、現地資本による韓国、チリ、モロッコ、インドネシアの協力工場の技術指導を行い、グループ企業として育成してきた。この努力は、寒天の安定供給にもつながっている。
・創業以来、48年間増収増益を達成し、2013年度の年商は約176億円(自己資本比率73%)、従業員は約480名。優良企業として、「グッドカンパニー対象グランプリ」「日本環境経営大賞最優秀賞」など数多くの表彰をうけている。
・1980年代から約3万坪に及ぶ本社敷地を「かんてんぱぱガーデン」として整備してきた。赤松の巨木をはじめとして、つつじ、あじさい、多くの山野草が生えている。年間35万人の来客がある人気観光スポットとなっている(2014年出版時)。
内容紹介
「年輪経営」とは
年輪は永続の仕組みを表しています。
木は天候の悪い年でも、成長を止めません。
年輪の幅は小さくなりますが、自分なりのスピードで成長していきます。
「天候が悪いから成長は止めた」とは言いません。
会社も一緒で、環境や人のせいにすることなく、自分でゆっくりでもいいから着実に成長していきたいものです。これが「年輪経営」の真髄です。
木が年輪を重ねるように、少しずつ確実に会社を成長させる経営を、著者は「年輪経営」と呼び実践する。
「会社は社員を幸せにするためにある」「人件費はコストではなく、会社の目的そのもの」「急成長は敵」「決算は3年に1回くらいでいい」―。
創業以来48年連続増収増益という実績を打ち出した経営者の常識はずれの企業戦略。
本書の構成
目次
はじめに
第1章 「年輪経営」を志せば、会社は永続する
第2章 「社員が幸せになる」会社づくり
第3章 今できる小さなことから始める
第4章 経営者は教育者でなければならない
おわりに
主な内容・著者の言葉
・著者は、ひたすら「会社を永続させたい」「会社は永続することに最大の価値がある」と考えて、経営に邁進した。ただ、入社して最初の20年間はそんなことを考えるゆとりはなかった。入社して25年を過ぎた頃から少し余裕が出て、「会社とは何のためにあるのか」「会社にとって成長とは何だろうか」と考えはじめ、得た結論は、「会社は、社員を幸せにするためにある。そのことを通じて、いい会社をつくり、地域や社会に貢献する」というもの。それを実現するためには、「永続する」ことが一番重要だと気が付いた。
・二宮尊徳の言葉「遠きをはかる者は富み 近きをはかる者は貧す」に出合い、いい会社にして永続させるための経営とは「遠きをはかる」ことに気がついた。
・年輪経営にとって、最大の敵は「急成長」。経営者にとって、この急成長ほど警戒しなければならない。「身の丈に合わない急成長は後々でつまずきの元になる」。
・ブームで得た利益は、一時的な預かりものと思え。(寒天ブームを経験して)「ブーム」というのは、「最高の不幸」ということ。
・社員が「前より幸せになった」と実感ができることが成長。会社はまず社員を幸せにするためにある。売上げを増やすのも、利益を上げるのも、社員を幸せにするための手段に過ぎない。幸せを感じるには、より給料が増えるとか、より働きがいを感じるとか、より快適な職場で働けるとか、さまざまなことがある。これらの実現と会社永続のバランスを取りながら経営していくべき。
・人の犠牲にたった利益は、利益ではない。当社は、「利益」ではなく、「永続」に価値を見出そうとする企業。
・利益は健康な体から出るウンチである。だから、「利益」を出そうと思えば、「健康な会社」をつくることを考えればいい。
・ブランドとは、「信頼ある企業が、信頼ある製品をつくって、ファンを持つ」こと。
・税金の支払い方で、法人税より源泉所得税で払いたい。人件費をケチらずに、できる範囲で給料を支払い、そこから所得税で税金を納めた方がいい。
・年功序列制度で社内の「和」を保つ。会社は運命共同体、家族だとさえ思っている。共同で責任を持ち、ご褒美も家族みんなで分かち合うことの方が、幸せではないか。
・社員のモチベーションを上げるのは、お金や地位ではなくて、「働いて、去年より良くなった、去年より幸せだ」と感じられること。
・著者が考える老舗企業になるための条件
①無理な成長はしない。②安いというだけで仕入先を変えない。③人員整理をしない。④新しくより良い生産方法や材料を常に取り入れていく。⑤どうしたらお客様に喜んで頂けるかという思いを常に持ち続ける。
・商売上の信頼関係とは、正しい理念で結ばれていること。正しい理念を共有していること。
・たくさん売るより、きちんと売る。コストを割るような過当競争は、企業の永続を脅かす。商売は売り手と買い手が対等、ともに繁栄していくのが、正しいあり方。
・「いい商品」とは、「これは人びとの役に立つ」「これは人びとを幸せにする」なと感じられるもの。
・何百年も続いた老舗だって、最初から老舗だったわけではない。創業の志を守って、コツコツと商売のあるべき姿を追い求めてきたからこそ、現在の姿がある。
・掃除はもの言わぬ営業マン。掃除をすることは、商売繁盛のコツである。
・経営とはみんなのパワーを結集するゲーム。
・幸せになりたかったら、人から感謝されることをやる。「幸せに生きる」ということが、人生の目的でもあり、人間の権利でもあり義務でもある。
・自分のことだけ考えることは野心だ。
・「立派」とは、人に迷惑をかけないこと。一番立派な「大きな立派」は、大勢の人、社会の役に立つこと。
・自分が幸せになりたいと思ったら、人に喜んでもらうようなことをしなさい。「利他」の心を持つということ。人の役に立って感謝されることほど喜びを感じることはない。
・社員たちが、「会社を儲けさせるために働いているんじゃない、自分たちの幸せのために働いているんだ」と本当に納得したら、彼らは自ら動き出す。
・逆境は、人を育てる。著者を育てたのは貧乏。若い人は自ら求めて、苦労を背負うことが必要。困難を自ら求め、逆境を切り開く体験は、きっと人間を強く大きくしてくれる。
・会社を永続させるためには、常に改革し続ける必要がある。どんな小さな会社であっても、トップは常に改革を目指さなければならない。後継者を育てる場合、何よりもこの「改革する」という癖を付けさせることが重要。
社歴50年超の中小企業であるが、企業永続の視点から経営を実践、また「年輪経営」を標榜し、いい会社と評価を得ている伊那食品工業は、まさに永続企業への参考になる経営であり、本書はヒントにあふれた一冊である。
永続的成長企業ネットワーク
代表理事    吉田正博
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