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[永続企業へのヒント:この一冊] ~中沢康彦『あの同族企業はなぜすごい』日本経済新聞出版社2017年~
[永続企業へのヒント:この一冊]
~中沢康彦『あの同族企業はなぜすごい』日本経済新聞出版社2017年~
・著者の中沢康彦氏は、日本経済新聞社編集局起業報道部シニア・エディター。1966年新潟市生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業。毎日新聞社記者を経て日経BP社に入社。「日経ビジネス」記者、「日経トップリーダー」副編集長、日経電子版デスクなどを経て現職。ファミリービジネス学会所属。著書に『星野リゾートの事件簿』『星野リゾートの教科書』など。
内容紹介
・事業を長期的な視点から見られるメリットがある一方、親族の不仲から泥沼の「お家騒動」が起きることもある同族経営。経営者や後継者をめぐるリアルなストーリーと最新のアカデミズムの知見により、同族経営の「本当の強さ」と課題を明らかにする。
目次
まえがき
第1章 同族企業は激しい―家族対立も企業成長の原動力
第2章 世代交代はもろ刃の剣―次の成長の好機か消滅への道か
第3章 後継者難の時代、家業を継ぐ哲学―個人の夢と家への思い
第4章 これからの老舗マネジメント―続いてきた、だけでは続かない時代
第5章 脱同族という選択―「その先」にあるものを求めて
第6章 知られざる「もう一つの主役」日本経済に深く根を張る同族経営
第7章 ビッグデータで初検証「同族経営のメカニズム」
第5章 同族だから起きる課題をアカデミズムで斬る
主な内容
・本書は大きく「同族企業の経営者が語るファミリーとビジネスの真実(1~5章)と「最新のアカデミズムの成果を通じた同族経営の分析」(6~8章)の2部からなる。
・同族企業には確かに非同族企業と違う行動原理がある。特に世代交代などの節目、経営環境の変化でリスクに直面した時などには、それが経営判断の違いとなって表れる。そして、同族経営の行動原理を生かした会社にはその分の強さがある。
・第1章で星野リゾートの星野佳路代表の父と経営権を争った日々の後、亡くなった父に「父の姿勢から、世代を超えて経営のバトンを代々受け渡してきた同族企業トップとしての義務感、事業承継を『最後の仕事』とする責任感を知った」「(若いころは)自分が正しいと思っておりましたが、結果的に事業が今でも継続できていることは、父が長期的な視野で同族経営の良識を発揮したからなのです」。
・また、「獺(だっ)祭(さい)」で知られる旭酒造(岩国市)会長の桜井博志氏は経営をめぐって父と対立。父の死後事業を引き継いだ桜井氏は、「取引が拡大する海外では、同族経営であることが信頼の証しになるという。サラリーマン経営者だと何かあったら逃げるかもしれない。しかし、ファミリーは逃げないことを皆知っている。ブランドを磨くにはやはりファミリービジネスだと思う」と語る。
・第2章で酒蔵をバイオ企業に変えた勇心酒造(香川県綾川町)の徳山孝氏は、「自分の理念、哲学を優先できたのはファミリーによるビジネスだったから」「長期的な視点で考える同族企業でなければ、今の形に変わることができなかった」と話す。
・第3章でプラスチック加工メーカー本多プラス(愛知県新城市)の本多孝充社長は、「若いころ商機の多い東京に本社を移したらと提案したことがあった。祖母から『田舎で日本一の会社にしたらお前は日本一。東京で成功しても偉くない』と説かれ、とどまった」「難しいことがあっても、地域とともにあることが大切」と話す。
・第7章で、ビッグデータから創業者から同族の2代目に事業継承した会社の業績の良さが目立つ。調査した教授は「経営者としての素質を欠いたいわゆる『バカ息子問題』はメディアを通じて目立ちやすいが、実際には未上場のファミリービジネスの多くが後継者をきちんと選んでおり、それが業績に表れているのではないか」と分析する。
・第8章で、ドイツとの比較も行っている。ドイツでは、国が本格的に取り組むまえから同族企業が働く人の福利厚生に取り組んできた。いち早く疾病障害保険や老齢年金を導入したほか、従業員向けに社宅や病院を開設。8時間労働や有給休暇など労働条件を改善する仕組みも、同族企業が早くからとり入れてきた。同族企業が下からつくりそれに政府が追随してきた歴史がある。日本の同族企業は自信と誇りを持って自社の特質や様々な取り組みを発信すべきだ(吉森横浜国立大学名誉教授)。
・本書の帯に「骨肉の争い、泥沼の対立、バカ息子問題?-旧来のイメージを打ち破る。世界が注目するビジネスモデル!」とあるが、中小企業には参考になる一冊である。
永続的成長企業ネットワーク
代表理事     吉田正博
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