[永続企業へのヒント:この一冊』 ~泉秀樹『不倒企業の知恵 超老舗が明かす繁栄の軌跡』廣済堂出版~
[永続企業へのヒント:この一冊』
~泉秀樹『不倒企業の知恵 超老舗が明かす繁栄の軌跡』廣済堂出版~
・著者の泉秀樹氏は、1943年静岡県生まれ。作家。65年慶応義塾大学文学部卒業。73年『剥製博物館』で第5回新潮新人賞受賞。著書に『狙撃』(実業之日本社)、『文物の街道』(恒文社)、『幕末維新人物100話』(立風書房)、『風と海の回廊』(廣済堂出版)などがある。
・日本には創業300年を超える不倒企業がたくさんある。関ヶ原の合戦、幕末維新、日清・日露戦争、関東大震災、太平洋戦争、戦後の混乱、そしてバブル崩壊のような経済大変動などさまざまな危機を、彼らはどのように乗り越えてきたのか。そこには独特な企業経営の戦略があるはずである。
・本書(平成8年発行)は、超老舗企業である不倒企業15社のトップのインタビュー集である。15社は、300年を超える企業ばかりでなく、200年代、100年代、80年代の企業経営者も入っている。それぞれの経営者の意識の比較対象によって見えてくることもあるはずだという配慮からという。著者は、各社の経営戦略の共通項を引き出して分析、企業繁栄と数世紀にわたる持続の非凡な考え方を抽出したのである。
・業種がまったく異なる経営者が語るなにげないエピソードの数々に、どの企業にも通底する地下水脈が流れていることを教えられ、目からウロコが落ちるようである。
・取り上げられている15社
① 竹茗堂茶店(静岡市:天明元年(1781)創業:茶)
② にんべん(東京都中央区:元禄12年(1699)創業:乾物)
③ 松屋菓子舗(福岡市:延宝元年(1673)創業:菓子)
④ 印傳屋上原勇七(山梨県甲府市:天正10年(1582)創業:鞄・袋物)
⑤ 小倉タンス店(新潟県加茂市:安永6年(1777)創業:家具)
⑥ 安藤石材店(青森県八戸市:寛文8年(1668)創業:石材)
⑦ 木津屋本店(岩手県盛岡市:寛永15年(1638)創業:事務機器・文房具)
⑧ 柳屋本店(東京都中央区:元和元年(1615)創業:化粧品)
⑨ 江崎べっ甲店(長崎市:宝永6年(1709)創業:宝飾)
⑩ 日影茶屋(神奈川県葉山町:寛文元年(1661)創業:日本料理)
⑪ 角長(和歌山県湯浅町:天保12年(1841)創業:醸造)
⑫ 旅館後藤又兵衛(山形県旅籠町:寛永11年(1634)創業:旅館)
⑬ 有次(京都市:永禄3年(1560)創業:刃物)
⑭ 作田金銀製箔(金沢市:大正8年(1919)創業:製箔)
⑮ 虎屋(東京都港区:天文年間(1532~54)創業:菓子)
・企業が生まれて自然消滅するまで20年か、せいぜい30年ほどといわれる中で、300年以上存続している企業存続の知恵とは。
たとえば、
――茶を積んで江戸へ向かった船が沈んで乗組員が死んでしまい、荷も失われたため、莫大な額の負債を背負いこんで、それを清算するために息子と孫の二代にわたって保障や弁済に苦労した「竹茗堂茶店」は、つづいて明治維新のときにもひどい打撃を受けた。それまで「将軍家御用達」の仕事をしていたから、明治新政府にはにらまれて茶の注文がまったくこなくなってしまったのである。
そして、このときは茶道教室を開いてなんとか生き延びることができたのだが、船が沈没した時と同様、ひどく苦しい時期をやり過ごさなければならなかった。
この2回の苦労は、並大抵ではなかった。だから、「どんなに景気が悪いとかバブルがはじけたって『船が沈んだとか維新の時よりかずっといいよ』とおばあちゃんは言ってますよ」などと言われると、その懐の深さ、歴史の持つ重みに感心させられる。
また、
――「木津屋本店」では、「ここの門に捨て子をしていくと、かならず助かるといわれていたようです。というのも、うちでその子に養育費をつけて、うちが抱えていた小作人へ預け、そこで一人前に育てたからです」といった興味深い挿話を引き出し、それによって「信用」「慈悲」といった商売のキーワードを浮かび上がらせている。
そのほか
――「私物化を避ける」「もうけすぎはいけない」「ごく自然な後継者選び」など、歴史的事実に裏付けられた秘けつが生き生きと語られている
・地域と企業の繁栄には、地域において企業誕生から、長寿企業(100~200年)となり、不倒企業(300年)へすすむ姿は、著者がいう「企業を経営する最も質の高い日本人に会って話を聞くことができた」その中にあるようだ。
(追記)
・本書の発行(平成8年)から20年が経過して、「不倒企業」15社のうち、1社(旅館後藤又兵衛)が倒れていた。300年を超える企業でも厳しい現実を見せている。ただ、本書の社長インタビューのなかでも、その厳しい経営状況について語っている。業態の変化、人材育成の変化など、かつて不倒と言われた状況とはことなる『環境の変化』に対応できなかったといえよう。
・企業の永続は、まだまだ奥が深い。今後もさらなる研究が必要と再認識させられた。