[永続企業へのヒント:この一冊』 ~日本経済新聞編『200年企業』日本経済新聞出版社2010年~
[永続企業へのヒント:この一冊』
~日本経済新聞編『200年企業』日本経済新聞出版社2010年~
・本書の出版は、日本経済新聞紙上で2008年4月「200年企業―成長と持続の条件」と題して連載が開始され、一定の分量に達したのを機に、まとめられたものである。
・編者に拠れば、「200年」という区切りを設けたのは、この200年の間には、商家や企業にとって数多くの難局があったから。今から200年前の文化文政期は商品経済が発展し、各地で地場産業も盛んになったが、一方で幕府財政が苦しくなり社会は混乱の様相を深めていく。農村では、貧富の差が拡大し、つづく天保期は打ちこわしや一揆が続発。そして幕末・維新の動乱期に突入し、1890(明治23)年には日本が資本主義社会になって初めての恐慌がおこった。紡績や鉄道などの企業の設立がブームになっていたところに凶作による物価騰貴が広がり、景気が急速に冷え込んだ。
・その後も1923(大正12)年の関東大震災、27(昭和2)年の金融恐慌、そして太平洋戦争と、事業を営む者にとっては苦難の連続。戦後の復興期を経て高度成長を果たした後には、石油ショック、大幅な円高に誘導したプラザ合意を経て、バブルが崩壊。阪神・淡路大震災で被害を受けた企業も多かった。
・本書に収録した企業は、そうした数々の荒波に耐え、困難を乗り越えてきた。時代や経営環境の変化に合わせ、自らをしなやかに変革してきた様子は、きっと読者の参考になるだろう。
・また、本書では、ファミリービジネスに詳しい後藤俊夫・光産業創成大学院大学教授の調査(2008年4月時点)を紹介している。日本には創業200年以上の企業が3,113社と世界で最も多い。2位のドイツ(1,563社)、3位のフランス(331
社)、4位の英国(315社)などを大きく引き離している。
・業種別にみると、最も多いのは「酒造」で447社、次いで「旅館」が425社。以下、「民芸・工芸」(339社)、「和菓子」(304社)、「食品」(291社)、「料理店」(185社)と続く。
・なぜ日本に、歴史の長いいわゆる「老舗」企業が多いのか。これに対し本書では、あえて答えを上げるとすれば、ひとつには自然が豊かな国だから、ということだろう。縄文時代の昔から、森林や海、川などの自然は多種多様な食材や生活用品の材料を日本にもたらした。それらを素材に、加工・販売する営みが早くから盛んになり、明治時代以降、家業から会社組織に衣替えして現在に至っているところが少なくない。200年以上の企業の業種別内訳をみても、そのことは裏付けられるだろう。
・ただし、いくら好条件に恵まれていたとしても、何百年もの歳月を生き抜いてくることができたのは、革新性があればこそ。後藤教授によれば200年以上の3,113社のうち2割にあたる618社は、現在の業種と創業時の事業が異なっている。
・本書は、「200年企業」が備える時代の変化への適応力や競争力の源泉に、さまざまな角度から迫っている。
・各章の企業事例は次のとおり。
第1章 壊して創る物語―経営者はひるまず挑む (13社)
第2章 世紀をつなぐガバナンス―ぶれない軸 (7社)
第3章 地域とともに―「利より信」を実践 (5社)
第4章 ヒトこそ資産―育てて価値を作る (4社)
第5章 イノベーション①―企業家精神で長寿に挑む (11社)
第6章 イノベーション②―危機を乗り越える (5社)
第7章 コアに専心―妥協しない (9社)
第8章 リーダーシップに学ぶ―経営力を磨く (6社)
第9章 オープンな経営―透明性を高める (4社)
第10章 ネットワーク―老舗と開放型の融合 (6社)
・事業の「選択と集中」をはじめ、「コーポレートガバナンス(企業統治)の強化」「コア・コンピタンス経営」「従業員重視」「実力主義人事」などを、「200年企業」はとうの昔から経営の軸に持ち、実行してきた。
・「200年企業」は個性的なところばかりだが、その経営は、時代を超えて、現代の企業に通じるものがある。まさに編者のいう通りであろう。