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[永続企業へのヒント:この一冊』 ~久保田章市『百年企業、生き残るヒント』角川SSC新書~
[永続企業へのヒント:この一冊』
~久保田章市『百年企業、生き残るヒント』角川SSC新書~
・著者の久保田章市氏は、現在島根県浜田市長。刊行時は法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科教授。専門は中小企業経営、経営者育成、地域経済など。三和銀行・UFJ銀行(現東京三菱UFJ銀行)に30年間勤務、支店長・部長等歴任。銀行員時代、1,000人以上の経営者と面談。主な著書に『小さな会社の経営革新、7つの成功法則』(角川SSC新書)、『二代目が潰す会社、伸ばす会社』(日経プレミアシリーズ)などがある。
・「企業で、最も大切なことは『継続』することです。」の書き出しではじまる本書は長寿企業(創業100年以上の企業)に学ぶ「変わるもの」「変わらないもの」、変革と人を活かす経営を実践する元気な9社の実例を挙げている。
☞長寿の秘訣
→第一の理由は、伝統的な「家」制度の存在。
・酒造業や醸造業などの長寿企業の多くは「家業」として発展したもの。家業で重要なものは「家」の存続。通常男子がいれば嫁をもらい家を継ぐ、女子しかいない場合や子供がいない場合は、家を継ぐ者がいなければ家が存続しない、家業も途絶えてしまう。そこで考え出されたのが「養子制度」。「家」を存続させるため、「家長」となる後継者を養子として迎えるもの。養子には、従業員や同業者、あるいは親戚の中から、優秀な人材が選ばれた。
・このように、血縁関係のない者が、養子縁組をして「家」に入って「家業」を継ぐというのは、世界的にも珍しい制度。(血統を重んじる中国や韓国では見ることができない制度)。長寿企業には、養子の経営者が力を発揮し、企業を発展させた例が少なくない。
→第二の理由は、「伝統の継承と革新」に取り組んできたこと。
・長寿企業は、伝統をしっかりと継承するだけでなく、その一方で、新しいことや経営革新にも積極的に取り組み、今日まで生き延びてきている。
「伝統の継承」すなわち「変わらないもの」とは、
①顧客第一主義②本業重視、堅実経営③品質本位④製法の維持継承⑤従業員重視⑥企業理念の維持
「革新」すなわち「変わるもの」とは、
①商品・サービスに関する顧客ニーズへの対応②時代の半歩先を行く③販売チャネルを時代に合わせて変更④本業の縮減を前提とした新規事業の確立⑤家訓の解釈を時代に合わせる
・どれも分かりやすい。ただ、「本業の縮減を前提とした新規事業の確立」は事例をみるとわかりやすくなる。宅急便のヤマト運輸(1919年創業)は二代目小倉昌男氏が、1979年、宅急便事業に進出する際、上得意で専属契約を結んでいた三越や、大口の松下電器(現パナソニック)との取引を解消したのは有名な話。当時のヤマト運輸の規模では、新しいことに挑戦しようとすると、人材など少ない経営資源をここに投入せざるを得なかった。(つまり、ヒト・モノ・カネの経営資源に限りがある中小企業で、新規事業だからと言って、新たに人を雇う、不動産を買う、あるいは借りるなどの追加的経営資源の投入は、出来る限り避けなければならない)。
→元気な長寿企業の共通する特徴
―経営学の世界に「アンナ・カレーニナの法則」がある。トルストイの名作『アンナ・カレーニナ』の有名な一文「幸せな家庭はみないちように似かよっているが、不幸な家庭はいずれも、とりどりに不幸である」からとったもので、業界はいろいろだが、業績のよい企業には共通する特徴がある―
・その一つは、積極的に経営革新に取り組んでいる。事例として、鍋屋バイテック、福光屋、熊澤酒造、森光商店、イケヒコ・コーポレーション、平和建設、亀井工業ホールディングス、西島、八木研。
・二つ目は、将来に必要な人材の確保と育成に積極的に取り組み、採用した人材を大切にしている。事例として、福光屋、熊澤酒造、鍋屋バイテック、森光商店。
→三つ目は、常に次の世代のことを考え、後継経営者の育成に取り組んでいる。事例として、八木研。
・「解は現場にあり」。本書を貫く著者の信念。本書は、長寿企業になるためのヒントが随所にある。今後、長寿を願う企業、特に中小企業に大いに役立つ一冊である。
永続的成長企業ネットワーク
代表理事     吉田正博
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