―商店街の回遊性を生み出す(松原商店街バザール創造プロジェクト紹介)―
横浜市保土ヶ谷区の「洪福寺松原商店街」が日本建築学会編『まち建築』彰国社刊に取り上げられています。
「『まち建築』とは、まちを生かす建築のいとなみのこと。ここで「建築」はモノとしての建築物だけでなく、コトとしての建築行為も意味する。今、建築に携わるすべての人びとに対して、ふたつのことを提起したい。ひとつはまちを生かす意識、もうひとつは建築のいとなみの拡張である。本書では、この提起に基づいて、36の事例を紹介しながら、これからの建築の職能のあり方を考える。」
建築の専門家の視点から、事例のひとつとして、「松原商店街」の姿を可視化している。商店街活性化を考えるにあたり、従来の経済からの視点だけでなく、この『まち建築』の視点は非常に参考になる。
「商店街のシャッター通り化が全国的に進む中、洪福寺松原商店街は、休日にもなると約2万人もの人びとが訪れるという。しかし、この商店街もかつてはその継続性が危ぶまれる状況にあった。新たな顧客を開拓し、活力を取り戻すためにはどうすればよいのか。危機感を抱いた商店主たちと地元大学、行政が協働し、商店街の回遊性を高める空間づくりやイベントが試みられている。」
◇ピンク色の旗を商店街に張りめぐらす
横浜市保土ヶ谷区の最寄り駅から500mのところにある住宅地の中にもかかわらず、いつもにぎやかな商店街がある。「濱のアメ横」とも呼ばれる松原商店街。
しかし、数年前は、商店街の存続が危ぶまれる状況にあった。店主や客の高齢化、そして建物の老朽化が進み、危機感を募らせていた。これに、商店街青年部が立ち上がり、横浜国立大学と連携した「松原商店街バザール創造プロジェクト」が始まった。
若い世代をどう集客するのかという課題に、学生・教員たちは商店主たちへのヒアリングやワークショップ、そして空間的なリサーチを行い、商店街組合、行政、地元住民らとともにディスカッションを続けた。この積み重ねの結果、道路の上に張られた天井旗の色を統一し、さらにその色を横断幕やのぼり旗、買い物かご等にまで展開するという方向性が浮かび上がった。松原商店街のように十字路を骨格とした商店街は、人の回遊性を生み出しにくい。しかし、商店街全体に同色の天井旗を張りめぐらせば、訪れた人は中心部から外れた店舗の存在や商店街の構成を商店街のどこからでも一目で把握しやすくなる。あちこち行き来しやすい商店街は買い物時間が長くなり、売り上げも伸びる。また、旗や家具による空間づくりは、建築的な改修と比べてコストも抑えられ、商店街組合の定常経費で賄うことができ、継続的なリニューアルも期待できる。
商店街を回遊しながら楽しめる企画は、「大型スーパーとは違って、お店の人との会話やコミュニケーションが楽しめる」といった評判を生んだ。
◇新しい顧客を開拓する「ナイトバザー」
松原商店街は、夕方6時になるとほとんどの店舗のシャッターが下りてしまう(体力が持たないという、高齢の商店主の声もあってのことだが)。しかし、東日本大震災の被害を受けた気仙沼の商店主への復興支援として、6時以降に店舗の軒先を被災した商店主に提供し、気仙沼の物産を販売する機会を設けたところ、普段は見かけない若者や子どもが数多く、商店街を訪れた。この出来事をきっかけに、現在は年2回ほど「ナイトバザー」を企画。各店舗や近隣の町内会、学生たちによる夜店のはか、地元のプロサッカーチームが企画したゲームコーナーなど、来訪者が楽しめる仕掛けを商店街の隅々にまで設けることによって、商店街を行ったり来たりしたくなる回遊性を生み出している。
◇商店街の魅力や秩序を可視化する
バザール創造は一定の成果を見せているが、実は、商店街が持つバイタリティーや特徴を整理して可視化し、反復することによって回遊性を意識化させたにすぎない。つまり、この商店街は、もともと店主の工夫あふれるストリートなのである。その魅力的な混沌の中に、全体の秩序を可視化し、よりバザールのためのにぎわいの骨格を強めようとしたのが「松原商店街バザール創造プロジェクト」なのだといえる。