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[特別企画] 『「本」からみた横浜の経営者(第4回)』

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中野静夫・聰恭(1987)『ボロのはなし』リサイクル文化社刊

ナカノ㈱は、1934(昭和9)年の中野商店の創業で、スタートしている。中野静夫が創立者であり、聰恭は静夫の長男である。1948(昭和23)年に株式会社となり、1983(昭和58)年に現在のナカノ㈱になっている。
筆者が監修した『横浜の元気な会社101社』(明日香出版、1997年)では、同社を「“共生”を理念とするリサイクル・ビジネスの展開」と評している。“他利自得”という同社の理念はステイクホールダー(利害関係集団)に利益を与えながら、自社も利益を得ていくことを意味しており、まさに共生を示している。それは“共存共栄”といってもよい。
『101社』によると、同社はウエス(多用途清掃布)分野では、わが国のトップメーカーであり、創業以来、回収された古着、古繊維を四角に裁断して、機械の油拭きなどに使用されるウエスとして再利用(リユース)するという事業を行ってきたとしている。資源を大切にして活用すべきであるという“もったい(勿体)ない”という思想も同社の経営理念になっている。
本書は、このようなリサイクル・ビジネスのリーダー的な企業の創業者と2代目の後継者が執筆したものである。「ボロとくらしの物語百年史」というサブタイトルがつけられているように、わが国におけるリサイクル・ビジネスの歴史が説明されている。

第1章 大正~昭和初期の建場の様子
第2章 近代産業の発展と古繊維業界の成立
第3章 戦時統制経済下のくず物業界
第4章 復興と発展
第5章 高度経済成長と再生資源業界の変貌
第6章 リサイクルの時代
第7章 古繊維業界の現状と将来

必ずしも大きな著書ではないが、目的をみると専門書のスタイルをとっているといってよい。「建場(たてば)」という買出人などが集めたくず物を買いあげるシステム(第1章)、ボロを原料にスタートした製紙工業、ウエスの最初の大口需要業者としての海運会社(第2章)の解説などは興味深い。そして戦時体制下の状況、さらに戦後の動向へと移っていく。とくに第5章以降は現代の「環境問題」にもつながる意味で目を開かせてくれる。
本書は刊行から、すでに25年をこえてしまっている。2代目は理論家であるとともに、業界のリーダーであり、著述も多い。そこで、できれば増補版などをつくって現在までの動きを教えてほしいとおもっている。
なお、2代目のご子息に中野剛志がおられる。中野は現代日本の若手の論客のひとりであり、『国力とは何か―経済ナショナリズムの理論と政策』(講談社現代新書、2011年)などのほか、『国力論―経済ナショナリズムの系譜』(以文社、2008年)、『恐慌の黙示録―資本主義は生き残ることができるか』(東洋経済新報社、2009年)、『TPP亡国論』(集英社新書、2011年)などを書いている。この著書では、グローバル化によって国民国家が後退するというこれまでの通説は完全に失効し、むしろ「経済はナショナリズムで動く」とし、世界はこの変化を理解できないままに危険な状況に陥っていると警告している。

永続的成長企業ネットワーク理事 斎藤毅憲
(横浜市立大学名誉教授、放送大学客員教授)